希ちゃん

希望の希、まれちゃんと名付けられた

 トリソミーには3種類あり【*】、笑さんが授かったのは18トリソミーの子どもだった。医師の一連の対応について松永さんはこう語る。

「妊婦さんに過剰な期待を持たせてはいけない。そう思って、あえて厳しい言い方をする医師もいます。この医師もそうだったのだと思います。

 また、子どもが13トリソミーあるいは18トリソミーの場合、手術を一切しない、という方針の医療施設が多いのも事実です。

 こうした“従来型”の医師や医療施設の姿勢に心くじけてしまう人が少なくありません。ところが、笑さんは違いました。絶望的な気持ちを奮い立たせたのです。

『予後(病気や手術の後、どの程度回復するかの見通し)が悪い』とか『亡くなる可能性が高い』というのは医者側のロジックであって、自分には納得できない。病気を持って生まれてくる赤ちゃんに対して、何も治療しない方針なんてあり得るのだろうか。なんとかしたい、と強く思ったのです」

【「トリソミー」とは先天性の染色体疾患で、「13トリソミー」「18トリソミー」「21トリソミー」がある。「18トリソミー」は18番目の染色体が3本ある状態で、3500~8500人に1人の割合で生まれる。18トリソミーの受精卵は着床しても94%が流産・死産になり、生まれてくる確率は6%といわれている。生まれながらの合併奇形は脳や心臓だけに留まらず、多数の臓器に及ぶ】

 自営でオフィスを構えていた笑さんは、勉強好きで普段から調べ物をするのが得意だった。そこで、「18トリソミー」の情報を自ら集めることにした。

 しかし、調べれば調べるほど、「積極的な治療はしない」「看取りだけを行う」といった言葉が目についた。医療から見放された病気であると思った。

 が、それでも笑さんは先に進み続けた。

「笑さんは『ネガティブな感情を口にしたり向き合うのは、時間のムダで意味のないこと』と言って、愚痴をこぼすことはありませんでした。そうした笑さんを支えたのが、夫の航さんです。航さんは飄々とした性格で、なんでも受け入れる人でした。笑さんをフォローし、包み込むような感じです。

 おふたりの話を聞いて実感したのは、困難が次々と現れても、夫婦の意見がズレたことは一度もなかったということです。この夫婦だから頑張れたんだと思いました」

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