『ドキュメント 奇跡の子』(新潮新書)

『ドキュメント 奇跡の子』(新潮新書)

 その翌週、夫婦は新たな病院に向かった。診察室に入ると、カラッと明るい雰囲気の女性医師が待っていた。

《「前の病院では(中略)治療をしても助からないので、治療はしないという説明でした。私たちは納得がいかないんです」

 女医はすぐに軽やかな声で返事をした。

「18トリソミーに関係なく、普通のお子さんと変わらず、その子に最もふさわしい治療を行います。それでよろしいですね?」

 笑の心はパッと明るくなった。心の中で(えー!)と叫んでいた。

「ご存知かもしれませんが18トリソミーは、治療しないと1年生存率が10%です。でも、治療をすれば30%になります。さらにうちで治療をすれば50%になります」

 今度は(えええーーー!!)と叫んでいた。

 病院によってここまで対応も、治療成績も違うのだ。笑には衝撃的だった。お腹の子が生存の方の50%に入るかどうかは分からない。だけど、少しだけ希望を持つことができる。最大限の治療を受けて、できる限りのことをやってもらったら……もし命が果てたときに受け入れられる……かもしれない。

 笑と航は医師に「これからよろしくお願いします」と頭を下げた。》

後編につづく)

【「障害」という表記については多くの議論がある。「害」という字を含まない「障がい」という表記や、「障碍」(「個人的な原因や、社会的な環境により、心や身体上の機能が十分に働かず、活動に制限があること」デジタル大辞泉より)という表記もある。本記事では、「障害とは、人と社会の接点で生まれるものであり、障害の原因は社会の側にあるのであるから、言葉をぼかす必要はない」という松永さんの考えに沿って「障害」と表記する】

【プロフィール】
松永正訓さん/小児外科医・作家。1961(昭和36)年、東京都生まれ。『運命の子 トリソミー』(第20回小学館ノンフィクション大賞)、『患者が知らない開業医の本音』(新潮新書)ほか著書多数。

※女性セブン2024年5月2日号

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