手嶋:マッドマンセオリーとは、相手に「こいつは何をしでかすかわからない」と思わせることで譲歩を引き出すやり方です。米国のトランプ前大統領はその手法を意識して使っていた。ネタニヤフとトランプは似たもの同士なのですが、マッドマンセオリーを意図的に駆使しているのであれば抑制も働くが、その本質が「マッドマン」だとすれば危険極まりない。
佐藤:その危険はありうると見ています。ネタニヤフは過去に兄をテロで失っており、宗教的な影響の面でも、合理性だけでは割り切れない内面世界を持っていると思う。
手嶋:現に中東地域に核兵器が存在する以上、イスラエルがさらに孤立し、追い込まれたネタニヤフが、核のボタンを押さない保証はどこにもありませんよ。
佐藤:実はイスラエル国民も、今回の事態を引き起こしたネタニヤフはみんな嫌い。一方で、ハマスが敵対行動を取らないように中立化することや、イランの攻撃に反撃すべきというのはイスラエル国民の全員が賛成している。「全世界を敵に回しても戦い生き残る」という内在的論理は、ネタニヤフが政権の座から降りても変わらない。
手嶋:そこにネタニヤフが「最高の友人」と呼ぶトランプが絡んでくる。最近はよく「もしトラ」、もしトランプが大統領に返り咲いたらと言われますが、私は「いまトラ」だと言っています。日本製鉄のUSスチール買収問題でも、トランプが「阻止する」と異を唱えるや、バイデンも追随したでしょう。大統領選の勝者はまだわからないが、すでにトランプは米国の経済政策、安全保障に確実に影響を与えている。
佐藤:米国の力が弱まり、いま世界中で勢力の均衡線の引き直しが行なわれている。ウクライナもそうだし、イランがイスラエルに反撃したのも、米国の力が弱まったと見たから勢力均衡線の引き直しに動いたと考えるべき。