緊迫が続く中東情勢。イランが4月13日夜から14日にかけてイスラエル本国にドローンや巡航ミサイルを発射したことは、日本のメディアでも大きく取り上げられた。両国の対立から「第五次中東戦争」の危機が叫ばれる一方で、日本と世界にも大きな危機が迫っていた──。インテリジェンスの専門家である外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、対立の深層と今後の国際情勢を読み解いた。
イスラエルとイランの緊迫は、現時点では即座に第五次中東戦争につながらないように自制が利いているが、今後偶発的な戦争に発展する危険もある。イスラエルはイランへの攻撃の意志を匂わせており、際どい状況になりつつあるのだ。【前後編の後編。前編から読む】
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佐藤:背景として、西側諸国がイスラエルを追い込みすぎたのだと思う。ICJ(国際司法裁判所)がガザでのハマス掃討戦を「ジェノサイド」と指摘したり、米国内にもイスラエルに制裁をかけるべきだという議論がある。それがイスラエルのユダヤ人から見れば、西側の反ユダヤ主義がまだ消えていないように見える。
手嶋:そうしたイスラエルの内在的論理を理解することは重要です。
佐藤:イスラエルの国是である「全世界に同情されながら死に絶えるより、全世界を敵に回しても戦い生き残る」という発想になっていくわけです。
手嶋:一方、日本ではイランの内在的論理もほとんど理解されていません。
佐藤:イラン側は、前述した『Pars Today』の12項目のメッセージで、「正確でコーラン的なイランの世界観」と題し、コーランに忠実だから最終的な勝利を確信していると言っている。核戦争が起きても、アッラーが働きかけて守ってくれるという原理で動いているとすれば、抑制が働かなくなる可能性はある。
手嶋:核抑止については、米ソのキューバ危機以来、核保有国が互いに核攻撃を仕掛ければ双方が滅んでしまうため、指導者は核のボタンに手をかけようとしなくなったという核の相互確証破壊のセオリーが言われてきました。しかし、それは核の戦略家たちが後知恵で現状を説明したにすぎません。イラン、イスラエル双方の内在的論理を読み解くと、イスラエルの核がイスラムの核を標的にして炸裂する最悪のシナリオが起こりうる。
佐藤:主要なプレイヤーは、イスラエルのネタニヤフ首相とイランの最高指導者ハーメネイー師だろうが、われわれは彼らが、外交用語で言うところの「マッドマンセオリーを駆使する者」なのか、それとも「マッドマン」なのかを見極めなければならない。