自民党の支持率が低迷するなか、岸田文雄・首相が目論んでいたとされる「6月解散」に黄信号が灯ったように見える。ところが、崖っぷちのはずの岸田首相は“伝家の宝刀”を抜くため、密かに準備を進めていた。その証拠となる内部報告書を入手した。【前後編の前編。後編を読む】
「岸田おろし」が起きないワケ
大型連休明けの国会は会期終盤を迎えるが、自民党議員の間に「奇妙な安堵感」が広がっている。
「いま自民党は非常に厳しい状況だ。(総選挙になれば)政権交代が起こってもおかしくない」
岸田首相側近の木原誠二・自民党幹事長代理がそう語るなど、「補選全敗で岸田さんも解散・総選挙は打てないはずだ」(閣僚経験者)との見方が広がっているからだ。
自民党内では予想されていた「岸田おろし」の動きも起きない。
「岸田総理がいち早く派閥の解散を決め、裏金議員を大量処分したことで党内に不満があっても反岸田勢力は身動きが取れない。官邸は補選後に党内情勢が不穏になると予測していたから、危機管理として事前に手を打っていたわけです。総理のリスク管理が機能している」(岸田側近)
さらに岸田首相は会期末の6月、派閥解散で派閥からの「氷代」がもらえない議員たちにカネを大盤振る舞いする。自民党本部は例年7月末に支給していた各議員(党支部)への活動費を400万円から500万円に増額し、6月に前倒しして配ることを決めた。「資金」の根元を押さえられ、特に若手議員は岸田首相にますます弓を引けなくなった。
その岸田首相は、解散・総選挙も自民党総裁選での再選も全く諦めていなかった。
衆院補選では「保守王国」の島根1区で岸田首相が2回も応援に入ったにもかかわらず大敗し、首相の“解散断念”につながったとされているが、官邸では補選直後に敗因を分析し、全く違う結論を出したという。
「最大の敗因は自民党のサボタージュだ。島根で勝てば総理が解散・総選挙に踏み切ると心配した自民党議員や公明党が、“負けたほうがいい”と考えて選挙に身を入れなかった。そのため組織票が動かなかった。衆院の補選は3選挙区ともに投票率が過去最低だったが、総理は、解散・総選挙を打っても組織票さえ動けば戦えると考えている」(前出・岸田側近)
岸田首相には、自民党の組織票を動かす「奥の手」がある。それを発動していた。
本誌・週刊ポストはそれを示す自民党の内部資料を入手した。