飛躍のきっかけとなったYouTube
ここに辿り着くまでには紆余曲折があった。真打ちの前の身分、二ツ目時代の前半は暗中模索の日々だったという。
「ネットの書き込みで『期待外れだった』とか書かれると、今度、その会場でやるとき、同じ噺はできないなって思ったり。いろんなことを気にし過ぎていましたね」
そんなつる子が飛躍するきっかけになったのは、新型コロナの流行下、つまり落語が思うようにできない時期だった。
「あのとき、落語家はいろんな選択をした。私は世の中が暗くなっているので、少しでも笑顔になれることをやりたいなと思ってYouTubeを始めたんです。昔からやってみたかったんですよ。思いつきで何でもやりました。落語関連のコントとか、料理とか、ただ歌うだけとか。でもそれをきっかけに、知ってくださる方が増えていって」
新たな表現の場を得たことで、本来の自分が戻ってきた。
「YouTubeで元気をもらいましたとか言ってくれる人がけっこういて。人に喜んでもらうこと。これが私の原点なんだなって思い出したんです。あの期間に揺るがない何かができましたね」
芸人は笑っているときでも目は笑っていないとよく言われる。しかし、つる子はいつも全身で笑っている。
【取材・文】
中村計(なかむら・けい)/ノンフィクションライター。1973年、千葉県生まれ。著書に『甲子園が割れた日』『勝ち過ぎた監督』など。近年はお笑い関連の取材・執筆を多く手がける。近著に『笑い神 M-1、その純情と狂気』。
撮影/田中智久 取材協力/新宿末廣亭、TBSラジオ
※週刊ポスト2024年5月17・24日号