「藤井八段の勝利はうれしくなかった」
さらに下の世代も台頭してきている。その筆頭が藤本渚五段(18才)だ。2022年に高校2年生でプロになった藤本は、現在最年少プロ棋士でありながら、昨年度、藤井と勝率1位を争った若手のホープ。
「惜しくも藤井さんに次ぐ2位でしたが、プロ2年目としては驚異的な成績と言えます。物おじしない性格で、昨年10月に藤井さんが八冠を達成した際には“対戦相手を応援していたからうれしくなかった。悔しかった”とコメントしました。棘のある言い方に周囲はヒヤリとしましたが、あえて口にしたのは、将来の対戦を見据えた宣戦布告なのではとみた専門家もいました」(前出・将棋関係者)
Mr.Children好きというやや大人びた18才は、打倒藤井へと熱い闘志を燃やしているだろう。
藤本以上に藤井へのライバル心をむき出しにする棋士もいる。
《藤井聡太さんです。いまはだいぶ先を行かれていますけど、早くタイトル戦に出て藤井さんと戦いたい》
『Number』(2022年1月7日号)で、「意識している棋士」を尋ねられてそう明言した服部慎一郎六段(24才)だ。2020年にプロになった服部は、翌2021年に若手棋士の登竜門である「加古川青流戦」で優勝。2022年も新人王戦で優勝するなど華々しい成績を残し、同年度の将棋大賞の最多対局賞と新人賞を受賞した。
「服部さんは藤井さんに追いつきたいという思いが強すぎて、焦りから自分のスタイルを見失った時期もあったほどです。それだけ藤井さんへの意識が強い棋士なんです。タフな将棋になる藤井戦を見据えて、棋士としては珍しく体力強化にも力を入れています。雨の日と対局日以外はランニングを欠かさないそうです」(前出・将棋関係者)
こうした、若手の台頭には理由がある。ここ数年で将棋界は大きく変化した。AIを用いた研究で腕を磨くことが当たり前になり、藤井もプロになった直後からAIを活用。八冠の偉業につながったといわれている。スマートフォンやインターネットが身近にある「デジタルネイティブ世代」から、藤井の牙城を崩す天才棋士が誕生しても不思議ではないのだ。
かつて、藤井と同じく若くしてタイトルを独占した羽生善治九段(53才)にも、佐藤康光九段(54才)、森内俊之九段(53才)といった同世代のライバルがいた。彼らは「羽生世代」と呼ばれ、互いに切磋琢磨しながら輝かしいキャリアを歩んできた。時を超え、現在は一歩先んじる藤井に包囲網が張られつつある。同世代棋士たちの“逆襲”に、将棋界が沸いている。
※女性セブン2024年5月23日号