「降圧剤」を服用する人は、全国民の2割に上る。高血圧による動脈硬化や心疾患を避けるため──医者はそう説明するが、薬が重病の発症を招いてしまっては本末転倒だ。今、降圧剤に重大リスクが指摘されている。
「明らかに緑内障のリスクを高めるという最新論文が出たことに、私自身、衝撃を受けました」
そう語るのは、日本の眼科関連の各学会に加えて米国眼科学会にも所属する引地泰一医師(ひきち眼科院長)だ。
引地医師が言及した論文とは昨年9月に英ロンドン大学眼科研究所が発表したもので、「カルシウム(Ca)拮抗薬の服用で緑内障リスクが39%上昇」との結果が示された。
「論文は英国『UKバイオバンク』に登録された約50万症例から、緑内障に関するデータが揃った40万人超を解析しています。その結果、約3.3万人がCa拮抗薬を服用しており、同薬を服用していない人と比べたところ、緑内障の罹患割合が1.39倍高かったことが判明したのです」(引地医師)
Ca拮抗薬は高血圧治療で広く用いられている降圧剤だ。英国では高血圧患者の約4割に処方されており、国内では降圧剤の処方数の約7割を占めることで知られている。
36年間にわたって携帯型の血圧計を装着し、血圧の変化の研究を続ける「ミスター血圧」こと渡辺尚彦医師(日本歯科大学客員教授)が言う。
「もともと狭心症治療薬として開発されたCa拮抗薬には、血管を拡げて血液の流れを良くすることで血圧を下げる働きがあります。降圧力が高く、副作用も比較的少ないとされていることから国内でも降圧剤の第一選択薬になっている非常にポピュラーな薬です」
一方、日本人の失明原因の第1位である緑内障は視神経が侵され、徐々に視野が欠けていく病。40歳以上の20人に1人が症状を持つとされる。傷んだ視神経は元には戻らず、一度罹患すると症状は改善しない。点眼などで眼圧をコントロールし、進行を抑制する治療が行なわれる。
実はこれまでCa拮抗薬などの降圧剤は緑内障の「抑止」につながると考えられてきた。血圧が高いほど(緑内障の主な原因である)「眼圧上昇」につながるとされ、降圧剤による血圧低下作用が、結果的に眼圧の上昇を抑えると期待されるからだ。