そのため、眼科医にとっては驚きの結果だったという。引地医師が言う。
「今回の論文が解析に用いたUKバイオバンクには約50万人が登録され、遺伝的素質や栄養状態、薬物療法などが疾患に与える影響を長期的に調査・研究しています。過去にない規模の調査であることに加え、論文が米国医師会発行の権威ある医学誌『JAMA Ophthalmology(眼科)』に掲載されたことで、信頼度は高いと考えます。日本ではまだあまり知られていませんが、すべての眼科医がこの結果を真剣に受け止めなければならないと考えています」
ただし、調査は「Ca拮抗薬の服用者は緑内障リスクが高い」という結果だったものの、その理由について決定的な見解は示されなかった。
「今回の調査ではCa拮抗薬と緑内障の関連は確認されましたが、Ca拮抗薬と眼圧の関連は認められませんでした。そのため論文の結論部分に、『緑内障を進行させる眼圧以外の何らかの機序にCa拮抗薬が関連している可能性が示唆された。ただし、因果関係は不明』と記されているだけです」(渡辺医師)
網膜が薄くなるリスク
どのような理由が考えられるのか。医薬品などの安全性を司るPMDA(医薬品医療機器総合機構)で審査専門員を務めた内科医の谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎院長)はこう推察する。
「人体には細胞の機能を調節する『カルシウムチャネル』がいたるところにあります。心臓や太い血管だけでなく、“細い血管の膜”である目のなかの細胞にも多数存在している。Ca拮抗薬はそれに作用して血圧を下げるため、目にも何らかの影響を与えている可能性はある。
今回の論文内でも注目すべき言及がありました。Ca拮抗薬が網膜の細胞に変化を与えた可能性です。Ca拮抗薬の使用者においては、層状の網膜が薄くなる変化が引き起こされ、緑内障の発症リスクが上昇したのではと指摘されています」