79歳の母親と「共感バディー」
NVCは子育てだけに限らず、様々な人間関係を平和的に解決できるのも特徴だ。たとえば、高齢になり、頑固で怒りっぽくなった親や、長年連れ添って遠慮のなくなった夫など、身近な人ほどお互いにジャッカル語で話してしまいがちだが、そういった場面でも有効なのだろうか。
「コミュニケーションがあるところ、人間関係において、NVCは有用だと私自身が実感しています。母との関係、現在のパートナーとの関係、それこそ別れた昔のパートナーともNVCを知っていたら乗り越えられたかもしれないなって思うくらいです。結局のところ、NVCはひとりひとりがまずは自分をちゃんと大事にして、他の人も大事にして、みんなのニーズを認め合う平和な社会、関係性を作っていこうよっていう、とてもシンプルな考え方。特に人間関係でストレスを抱えている人にはぜひ試してほしいですね。
私は79歳の母と『共感バディー』というトレーニングを時々やります。まず1人が何でもいいから話して、その際にどんな感情があるのか、それはこんなニーズが満たされていないからだということを正直に相手に伝えます。聞く方はアドバイスや意見などは一切せずに、とにかく共感的に話を聞くことに集中し、相手にどのような感情が湧いているのかを考えます。
母は普段、私と話しているとすぐに『だからまたあなたは~』『あなたがそんなだから~』などと言ってくるのですが、『お母さんは私の話を聞くだけでいいから。どんな感情なのかだけ考えてみて』と伝えると、『じゃあ、悩んでいるの? 不安な気持ちなのかしら? あなたの話をそんな風に聞いたことがなかったけど、あなたはそんな風に考えているのね』と、私の話を素直に聞いてくれるようになりました。母娘は何でも言い合えるゆえ、特にぶつかりやすい存在ですが、お互いにNVCを意識して会話をすることで、言い合う回数はグンと減ったんです。
共感バディーは夫ともよく行っています。今は私が話す番であなたは聞く番、じゃあ今度は交代ねって。お互いの内面を知ることができ、夫婦の絆がより深まると思います」
【プロフィール】
Koko(丹羽純子 にわ・じゅんこ)/1973年、東京都生まれ。NVC、瞑想、ブレスワーク、セクシャリティーのガイド。2017年、アメリカ最大のNVCの団体「BayNVC」主宰の年間リーダーシップ・プログラムを修了。対面とオンラインで多くの人たちにNVC講座を開催している。ヨガとサーフィンを愛し、平和環境先進国家コスタリカ共和国と日本の二拠点生活中。新著に『親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て NVC非暴力コミュニケーションワークブック』。http://www.imakoko.org
取材・文/岸綾香 撮影/五十嵐美也