ネットでの誹謗中傷やカスハラ、公共空間でのちょっとしたいざこざなど、現代では人と人とがぶつかり合う場面が少なくない。そうした中、「NVC(Nonviolent Communication。日本語では「非暴力コミュニケーション」)が、いま世界的に注目されている。ひとりひとりの生きる力を尊重し、あらゆる人間関係において“本物のつながり”を取り戻すヒントになるという「NVC」とはなにか。
近著『親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て NVC非暴力コミュニケーションワークブック』があるkokoさんに、NVC活用術を聞いた。
イライラ爆発の母娘関係に変化
「NVC」とはアメリカの臨床心理士であるマーシャル・B・ローゼンバーグ氏(1934~2015年)が考案した平和的コミュニケーションの手法で、1970年代にマーシャル氏が提唱すると、「こじれてしまった人間関係が修復される」と徐々に話題になり、アメリカ全土の家庭や学校、地域対立の場などで広がった。マーシャル氏は晩年までイスラエルやパレスチナの紛争地帯や国際組織でもNVCを精力的に広めることに貢献したという。当時、子育ての悩みに直面していたkokoさんは、NVCの講座に参加して人生が変わったと話す。
「マーシャル氏はコミュニケーションの方法を改めることによって、人間関係が変わることを体系化しました。それからもう40~50年経ちますが、特にここ10年で、心のつながりや思いやりを持って生活を送ることの大切さが強く叫ばれるなか、世界的にNVCを学ぶ人たちが増えてきているのを実感しています。
私の場合、NVCへの入り口は子育てでした。17年前に娘を出産し、彼女が4才のときに海外移住を決意。移住先は軍隊のない中立国であり、環境先進国としても有名な中米のコスタリカ共和国を選びました。パートナーとは別々の道を歩むことになり、縁もゆかりもない異国の地で娘との2人暮らしがスタート。子どもはもちろんかわいいのですが、見知らぬ土地での生活は想像以上に大変で、日々のストレスは娘に全部向かってしまい、「なんでそんなことも分からないの!」「早くしなさい!」「本当に悪い子!」と、感情のコントロールが効かず、強い言葉ばかりを浴びせてしまう日々……。
娘との関係は最悪、母としての自信もどん底、「これはもう、まずいな」と感じていた時に、「NVCが子育てにすごくいい」という情報を得たのです。幼い娘を預けて、私が住む村からガタゴト道を5時間ほどかけて、1泊2日の講座を受講しに行きました。「何としても、これを学んで役立てないと!」って、それはもう、藁にもすがる思いで必死でしたね」
1泊2日の受講を終え、早速、当時5才の娘に実践したという。
「散らかり放題の娘の部屋を見て、いつもなら『汚い! 悪い子! 早く片付けなさい!』と私がガミガミ怒鳴り、娘はそれに反抗する、これがいつものお決まりのパターンでしたが、NVCを使ってコミュニケーションをとったところ、『片付け方が分からずに困っていた』という娘の本音を聞き出すことができたんです。
自分のことを大事にする話し方をしてくれたと、娘も変化を感じたのでしょう。私の心の向け方、子どもへの声の掛け方を変えるだけで、親子ゲンカにならず、普段は決して聞くことのできなかった彼女の内側にあることを話してくれた。まさに対立せずに平和的な解決ができて感動したのを今でも覚えています。そこから私のNVCジャーニーは始まりました」
kokoさんは、さらに1年間のNVC集中プログラムに参加した。2017年にはアメリカ最大のNVC団体「BayNVC」主宰の年間リーダーシップ・プログラムを修了し、現在では日本国内をはじめ、多くの人々にNVC講座を開講している。