「自分でも、それがいいことなのかどうかはわからないけど、アマチュアというか、素人っぽいなと思うところがあります。本にも書きましたけど、天職だと思って一筋に医者をめざしたわけでもないですし、いまだに医者になりきれてないところがある。友だちも医者以外の人が多いですし」

 診療所で患者さんを診るときに、「医者らしくしなきゃ」みたいな気持ちになったりするのだろうか。

「あります、あります。ケガをした救急の患者さんに『どうしましたか』と言いながら、『ER緊急救命室』(医療ドラマ)の吹き替えをしてるみたい、って思ったりしています。自分にツッコミを入れながら、日々、悪戦苦闘ですね」

 悪戦苦闘という香山さんは、いきいきとして、とても楽しそうだ。

「自分が精神科医で良かったな、と思うのは、ここは超高齢化地域で、患者さんには80代から90代、100歳の方もいらっしゃるんですけど、私はずっと精神科医として働いてきたので、体を診察するだけじゃなく、その人の生活背景とか、これまでどのように暮らしてこられたのかを習性として聞くんですね。そのお話がめちゃくちゃ面白い。親が入植者だったり、とか、アイヌのルーツがある方だったり、人にはそれぞれ物語があるって言うと単純に聞こえてしまうかもしれませんが、本当に面白いし勉強になります」

シカやキツネ、タヌキはもちろん、エゾシカも…

 東京の仕事を辞めてやってきた医師に地元の人たちは優しく、困っていることがないか、山菜を採ったから食べないかと、何かと気にかけてくれる。

 香山さんは北海道生まれなので、「地元に帰ったの?」と言われることもあったそうだが、札幌生まれ、小樽育ち、高校からは東京で、むかわ町にはそれまで一度も来たことがなかった。縁もゆかりもない土地と香山さんを結んだのは、むかわ町穂別から発掘された恐竜カムイサウルスの化石だという。

 香山さんは、母の死とアフガニスタンで命を落とした中村哲医師の事件を通して、この先、自分がどう生きていくか考えるようになっていた。

 途上国や紛争地など医師不足の土地に行くことも考えたが、コロナ禍で、海外渡航が難しくなる。国内の、医療過疎地の求人情報を載せるサイトを見ていて偶然、見つけたのがむかわ町穂別の診療所だった。2019年に国立科学博物館で開かれた恐竜博で心を奪われたカムイサウルス、通称むかわ竜の化石が発掘された場所だと気づき、別の診療所に応募することをほとんど決めていたのに、急遽、応募先をむかわ町に変えたといういきさつがある。

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