穂別では新たに恐竜博物館が建設される予定で、香山さんも、専門家が住民の話を聞きにくるときのコーディネーター的な役割でかかわっているそうだ。

 60代での思い切った転身には、「60代を楽しまなきゃ」「好きなことをしなさいよ」と言っていた亡き母の言葉も後押しになった。

「ふつうは60歳っていうと、『もう年だ』ってイメージだと思うんですけど、母は『人生でいちばんいい時期だ』って。自分自身の経験から言ってたと思うんです。子どもは巣立って、まだまだ体力はあって、人生を楽しむにはいい時期だって。私が『離島のお医者さんになろうかな』って言うと反対したんですけど、母も亡くなったし、私も好きなことやらせてもらいますよ、って」

 ずっと診てきたクリニックの患者さんがいるので、月に何度か東京に戻り診察する。母校の総合診療科での修行も続けている。穂別診療所の所長も、週末は、むかわ町から離れてリフレッシュしたほうが長続きする、という方針だという。

「『へき地』なんて書いてますけど、実は新千歳空港から車で1時間15分ぐらいなんです。途中の信号もないし、渋滞しないから、運転はぜんぜん大変じゃありません。シカやキツネ、タヌキはもちろん出てきます。エゾシカはすごく大きくて、ぶつかると大変なことになるから気をつけなきゃいけないんですけど」

 診療所の定年は65歳。再来年、恐竜博物館が開館するまでは、むかわ町にいて見届けようと思っているが、そこから先は未定だ。

 海外で働く夢もあきらめておらず、「北海道パレスチナ医療奉仕団」というグループに入っているという。

【プロフィール】
香山リカ(かやま・りか)/1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学在籍中から執筆活動を開始。同大学卒業後、精神科医として臨床に携わりながら帝塚山学院大学教授、立教大学教授などを歴任。2022年4月、北海道のむかわ町国民健康保険穂別診療所に総合診療医として着任。週末には東京での精神科診療も継続。北海道と東京を往復する2拠点生活を送っている。近著に『逃げたっていいじゃない』『老いてもいい、病んでもいい──「常識」を捨てたらラクになる』『デジタル依存症の罠』『もっと、自分をいたわっていい』など多数。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2024年5月30日号

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