シングルマザーの先駆けで親から遺産を相続した料理研究家の歌子。元高校教師でしっかり者の厚子。医師の夫と離婚して第二の人生を楽しむ瑞恵。ほわんとした、ムードメーカーでもある恒子。歌子と厚子、瑞恵は、歌子が所有する東京郊外のマンション、通称「カメ・ハウス」に恒子を迎え入れる。
学生の翔太は内心では4人に対して結構辛辣なことをつぶやきながらも、みんなで食べる料理のおいしさにつられてカメ・ハウスに通うのをやめない。翔太以上に冷ややかだったガールフレンドの専門学校生美果も、いつのまにか恒子たちと親しくなっている。
「この本について、高齢者には『高齢者4人の共同生活』と説明し、若い人には『若い2人が生き方を模索する話』と説明しています(笑い)」
視点が変われば見え方も変わる。恒子が迷子になったり、厚子が人生で初めて恋をしたり。立ち退きも迫られ、カメ・ハウスは波乱続きだ。
御木本さんは小説をどう組み立てていくんですか。
「映画みたいに、まず冒頭のシーンを考えて、これで入れるな、となったら、後はラストを思い浮かべます。一人ひとりの登場人物がきちっとできれば勝手に彼女たちが動いてくれて、終わりにたどりつく感じですね」
『やっかいな食卓』の凛子には、外交官の妻としてホームパーティーを開き、料理を作ってもてなしてきた御木本さん自身の経験がいかされ、もう一方の主人公であるユキの思いにも自分を重ねた。
「今回の作品も同じです。私の場合、あらゆる登場人物が私の分身なんですね。カメ・ハウスで暮らす4人だけでなく若い翔太くんもガールフレンドの美果ちゃんもそう。私の本名は神谷なんですけど、近しい人は小説を読んで『そこら中に神谷がいるよ』って言います。南米を放浪してきた沼袋さん、翔太くんに言わせれば『薄汚いオッサン』ですが、彼のうんちくも、南米暮らしで得た私のお得意のうんちくですからね」
90歳になったって、どこかで花を咲かせられたらいい
小説の終盤で、1枚の絵が重要な役割を果たす。これも、リオ・デ・ジャネイロにいたときの知り合いが偶然、同じような絵を手に入れたことがあり、記憶に残っていた。
実は、御木本さんは本名でエッセイを4冊発表している。