「なかなか企画が通らなくて、編集者からは『今はエッセイが売れません。有名人じゃなきゃ売れませんから。まず神谷さんが有名になってください』なんて言われて。これはもうダメだと思ったんです。
私はものを書くことが好きで、これからの人生を考えるとやっぱり何か書いていきたい。じゃあとにかく、一から小説を勉強しようと思って、6年ほど前にカルチャーセンターの小説講座に通い始めました。80歳になったって90歳になったっていいじゃないか、どっかで花を咲かせられたらいいなと思って」
書き上げた作品を新人賞に応募したところ、最終候補には残らなかったが編集者の目に留まってデビューすることになった。
担当編集者いわく、料理の描写がとにかく上手だったこと、面白い話を書こうという意識が伝わることが決め手だったそうだ。
タイトルを決めるのにかなり苦労した。読者の興味をひく、現代的でキャッチーなタイトルだが、小説の歌子や厚子は「終活って言葉、私は嫌いだわぁ」「余計なお世話だってのよね」と結構、辛辣なことも言っている。
「終活」について、御木本さん自身はどう考えていますか。
「歌子さんたちが言う、あの通りです。今やたらに『終活』『終活』って言うけど、あれはほんとに腹立たしいと思って(笑い)。年寄りも、保険会社や銀行にのせられホイホイ終活に進まない方がいいですよ、と言いたい。
私は佐藤愛子さんが大好きで、最後の小説の『晩鐘』を読んだとき、92歳でこんなに力強い小説が書けるなんてすごい、私もまだ20年はがんばれる、大丈夫、と思いました」
人生経験を重ねて小説家として幸運なスタートを切った今、書きたいものがたくさんあると、御木本さんは言う。
取材・構成/佐久間文子
【プロフィール】
御木本あかり(みきもと・あかり)/1953年千葉県出身。お茶の水女子大学理学部卒業後、NHK入局。夫の海外勤務で退職し、その後通算23年、外交官の妻として世界9か国で生活。本名の神谷ちづ子名義でエッセイ『オバ道』『女性の見識』などの著書がある。2022年『やっかいな食卓』で小説家デビュー。
※女性セブン2024年6月6日号