2012年に東京から大阪へ拠点を移した(撮影/小倉雄一郎)

2012年に東京から大阪へ拠点を移した(撮影/小倉雄一郎)

収入は「落ちましたよ、それは」

──ちなみに今は、どれくらいの頻度で高座に上がっているのですか。

方正:多いときで月の半分くらいですかね。でも、東京の人気落語家たちは毎日、どこかでしゃべってるでしょう。僕もできるなら毎日、やりたいんですよ。テレビタレントとして活動していた頃、僕は、真っ暗なところを懐中電灯で照らしながら歩いてたんです。あ、こっちに道があるな、って。あるある、大丈夫や、みたいな。でも今は灯りがずっと見えてますから。懐中電灯を持つ必要もない。明るいところをダーッと行くだけなので怖くも何ともないんです。

──どこに向かって「ダーッ」と歩いているのですか。

方正:どこに向かっているかはわからないですけど、灯りが何かっていったら、古典のネタなんです。僕がやりたいネタがずらっと並んでいるんです。まずは『はてなの茶碗』をやって、次に『上燗屋』にいかなあかん。『上燗屋』をやったら、次は『ふぐ鍋』にいかなあかんのですよ。もう、やらなあかんことがいくらでもある。

──神経を磨り減らしていただろうテレビタレント時代に比べると、本当に充実しているというか、幸せなんでしょうね。とはいえ、想像するに、収入は落ちたのではないですか。

方正:落ちましたよ、それは。僕は上方落語をやりたかったので、2012年に東京から大阪に拠点を移したんです。言うたら、地方に逆戻りしたわけで、その分も落ちますよね。なので、経済は回らなくなりました。でも、そんなことよりも心が回ってるというか、人生が回り出したんで。カッコよかったですね、今のセリフ。ただ、今は経済も回り始めましたよ。そこまでくるのに10年はかかりましたけど。

──それまでは蓄えを切り崩すような生活だったわけですか。

方正:いや、切り崩してはないです。そこは吉本興業に感謝なんですけど、なんとか生活できるようにしてくれていたので。僕は今も関西で3本、レギュラー番組を持っているんです。東京に比べたら単価は安いですけど、それでも助かりました。僕は吉本の東京事務所が赤坂のマンションの一室にあったときから東京でがんばってきましたから。勤続36年です。そういうのもあって、面倒を見てくれてるんやと思います。やっぱり経済って大事じゃないですか。まさに貧すれば鈍するなんですよね。貧しかったら、せっかくの才能も枯れてしまう。だから経済は回さんとあかんのです。

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