スポーツ

【プロ野球審判はつらいよ】出場翌日に“クビ宣告”のケースも プロ野球審判員を38年務めた男が明かす「最大のピンチ」

5月28日開幕の交流戦で話題をさらった日本ハムの新庄剛志監督。古巣・阪神のユニフォームを着て試合前のメンバー表交換に臨んだ。試合後、NPBからは「次やったら退場」とのコメントが出た(時事通信フォト)

5月28日開幕の交流戦で話題をさらった日本ハムの新庄剛志監督。古巣・阪神のユニフォームを着て試合前のメンバー表交換に臨んだ。試合後、NPBからは「次やったら退場」とのコメントが出た(時事通信フォト)

 開幕から3か月が過ぎ、交流戦に突入したプロ野球。両チームの選手とともに試合を進行するうえで欠かせない存在が「審判員」だ。判定をめぐって選手や監督らから猛抗議を受ける場面もしばしば目にするが、彼らには知り得ない苦労が多いという。38年に及ぶプロ野球審判人生で3001試合に出場した橘高淳氏が振り返る、プロ野球審判員の知られざる姿とは──。スポーツを長年取材する鵜飼克郎氏が聞いた。(全5回の第1回。文中敬称略)

 * * *
 日本野球の頂点にあるNPB(日本野球機構)。その舞台で審判として選手とボールを追い、ジャッジを下してきた橘高淳は2022年に60歳を迎え、同年9月20日の阪神−DeNA戦を最後に38年間の審判生活に幕を下ろした。出場試合数は3001。この数字に届いたのは橘高を含めて19人しかいない。

 1985年にNPBの審判部入りした橘高は、セントラル野球連盟関西在住審判として正式に契約した。

「高卒で阪神タイガースに入団した時の年俸は240万円。それからの在籍4年間で300万円には届きませんでした。面接の時に審判部長の富澤宏哉さんから『(選手時代から)若干下がるけど、やっていけるか』と聞かれました。独身だったし、40年近く前の物価ですからね。そんなに悪い待遇ではなかったと思います」

 だが、それで将来が安泰になったわけではない。審判員はサラリーマンではなく、1年ごとにNPBと契約を更新する個人事業主だからだ。プロ野球選手のような契約金もない。オフにクビを通告されれば、その瞬間に無職になってしまう。

「あくまでも実力の世界です。プロの審判として通用しないとみなされれば、翌年の契約更新時にお払い箱になる。一軍に上がれないまま辞めていった審判員をたくさん見てきました。一軍のゲームに出るようになっても、誤審が問題となって契約延長されなかった審判もいました。ミスは誰でもありますが、『同じようなミスが多い』『ミスの原因は何か』『改善される見通しが低い』といった評価を経て、契約が更新されるかどうかの判断が下されるのです」

プロ野球審判を38年務め、史上19人目となる3000試合出場を達成した橘高淳氏。2022年に引退した(撮影/杉原照夫)

プロ野球審判を38年務め、史上19人目となる3000試合出場を達成した橘高淳氏。2022年に引退した(撮影/杉原照夫)

プロ野球審判は選手同様にシビアな世界

 次のシーズンも契約が継続される審判には10月末までに翌年の更新の連絡が届くが、カットされる審判にはシーズン終盤の9月に打ち切りが伝えられる。実績があるベテランの場合は「引退試合」を組んでもらえる一方で、ナイターに出場した翌日に「今季限り」を通告される審判もいたという。プロ野球選手の戦力外通告と同様にシビアな世界だ。

 実は審判には明確な定年が決まっていない。これも選手と同じだが、近年は橘高のように60歳を区切りに引退するケースが多く、事実上の“定年”となっている。

「ひと昔前は55歳が区切りでした。それが56歳になり、58歳と延びていった。そして60歳まで務めた先輩がここ3年ほど続いたので、僕も60歳までやりました。

 引退年齢が上がっている背景には人材不足があります。審判の養成には時間がかかるうえ、ミスが多ければ契約が打ち切りとなる。2025年あたりに60歳を迎える審判が多いので、今後はさらに引き上げないと審判が足りなくなってしまうかもしれません」

関連記事

トピックス

都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト)
《横綱昇進》祖父が語る“怪物”大の里の子ども時代「生まれたときから大きく、朝ご飯は2回」「負けず嫌いじゃなかった」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヤクザが路上で客引きをしていた男性を脅すのにトクリュウを呼んで逮捕された(時事通信フォト)
《ヤクザとトクリュウの上下関係が不明に》大阪ミナミでトクリュウを集めて客引き男性を脅して暴力団幹部が逮捕 この事件で”用心棒”はどっちだったのか 
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン