野沢直子さんが新作について語る

野沢直子は作家としても活動

カチンと来たのはどういうタイプの人かを推測してみた

 ところが、この回答にカチンと来る人が少なくありませんでした。いわゆる炎上状態になったのは、朝日新聞の記者がネット上で記事に付けたコメントや、SNSへの書き込みも大きく影響しています。そっちに関する話は、しょせんは小さなコップの中での騒動であり、朝日新聞批判ありきの屁理屈合戦なので、ひとまず置いておきましょう。

 野沢直子の回答が逆鱗に触れたのは、おそらく「ニュースに強い関心を持っている自分が誇らしくて、ひと味違う『心配の種』を見つけるのが得意なタイプ」です。この相談者にシンパシーを覚えるタイプと言ってもいいでしょう。相談者は「今の自分をどうにかしたい」という気持ちがありますが、怒っている人たちはどうなんでしょうか。

 彼女の回答を意訳すると「ニュースなんて一面的なものなのに、それに詳しいからって何だっていうの。新しい『心配の種』を見つけて憂いながらドヤ顔してるヒマがあったら、家族にもっとやさしく接したり、コンビニの店員さんや近所の人に愛想よくしてみたらどう。世の中を変えるって、まずはそういうことでしょ」という感じでしょうか。

 そりゃ、ニュースに心を揺さぶられる自分に誇りを抱いている人にしてみたら、許せない気持ちになりますよね。本筋じゃないのは十分にわかった上で、あえて刺激的な表現をしている部分を切り取って非難してみたくもなるでしょう。

 土曜別刷りという娯楽色の強い場所に連載されている一種のエンタメ記事だと知っていても、多くの共感を得るために「新聞の使命を自ら放棄するのか!」と過大な責任を背負わせた人もいるかもしれません。もし本気で批判しているとしたら、すべて同じ方向を向いた記事ばかりのメディアをお望みでしょうか。理不尽さに怒りを覚える記事もあれば、頭を冷してくれる記事もあるのが、多様性のある健全なメディアです。

 誰かの批判だけを読んで元の回答を読まずに怒ったり嘆いたりしている人は、たいへんお疲れ様です。「だから朝日新聞は」「だから吉本興業は」と、腕まくりして張り切っている人もネット上でたくさんお見かけしました。いずれも「わざわざニュースに振り回されて苦しんでいる人」を体現していて、彼女の回答に説得力を与えてくれています。

騒動を通じて植えつけられたさまざまな「心配の種」

 当たり前ですけど、ニュースなんてどうでもいいと言いたいわけではありません。ニュースのおかげで大事なことを知ったり見聞が広がったり、社会や自分について考えるきっかけをもらったりしています。感謝すると同時に、結局はニュースを“消費”しているのではと後ろめたさを覚えたり、振り回されていると感じたりすることもあります。

 それはさておき、野沢直子の回答があちこちから批判されている光景を見て、自分の中に多くの「心配の種」が植えつけられました。

 たとえば「ニュースの受け止め方」に関する暗黙の縛りについて。NHKの朝ドラ『虎に翼』でも、召集令状が届く場面がちょっと前に何度かありました。そのとき家族や周囲の人は、本心とは裏腹に「おめでとうございます」と言わなければなりません。「運が悪いね」とか「行かないで」なんて本当の気持ちを言ったら、当時は非国民扱いされました。

 私たちがニュースに反応するときも、たくさんのお約束があり、相互に監視し合っています。「胸が痛むニュース」にせよ何にせよ、お約束に沿った感想しか許されません。政治や社会の問題を報じるニュースは、強い関心を持つのが大人としての務めとされています。「どうでもいいよ」と言ったら、軽蔑されて人非人扱いされるでしょう。その手の暗黙の縛りと相互監視がどんどん強まっていると感じられて、心配でなりません。

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