ライフ

【脳卒中】“最善のリハビリ”のために必要なこと「時間との勝負」「急性期病院から回復期病院へのスームズな移行」

脳・神経系のリハビリ(写真/PIXTA)

脳・神経系のリハビリにおいて大事なことは(写真/PIXTA)

 ある日突然、脳と心臓をめがけて襲ってくる「サイレントキラー」。たとえ命は助かっても、後遺症として失うものが少なくない。しかし、しかるべき処置を適切なタイミングで受けることができれば、打ち克って社会に復帰することも不可能ではない。最善の脳・神経系のリハビリについて、ジャーナリストの鳥集徹氏がリポートする。【前後編の前編。後編を読む

 * * *
「脳梗塞を発症し、回復期にリハビリ治療を行った70代の女性患者は、うちの老健に紹介されたばかりの頃は一日中寝たきりで自力で起き上がれず、移動も車椅子介助でした。それでも、薬の量を調整して減らし、まひした下肢に装具をつけて、立って歩く訓練を積極的に行ったら、立ち上がって自力で歩くことが可能になりました。

 彼女は発症から8か月経っていました。しかし脳の画像診断をしたら、それほど脳損傷は大きくない。だから、寝たきりになるはずがない、回復するはずだと判断したんです。家族もまた、治療を希望しました」

 そう話すのは、ねりま健育会病院院長で、リハビリテーション専門医の酒向正春医師。脳神経外科医として脳卒中の急性期医療に携わった経験も持つ酒向医師の信念は、脳の状態を適切に診断し、失われた機能の最大限の回復をはかる「攻めのリハビリ」だ。

 国立循環器病研究センターの調査(2010年の吹田研究)によると、5人に1人が生涯で一度は脳卒中を発症するという。脳卒中は脳の血管が血栓で詰まったり動脈から出血したりして、脳細胞の一部が壊死する病気の総称だ。「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つで、脳卒中の95%以上を占める。なかでも脳梗塞の発症率が最も高く、全体のおよそ4分の3(73%)にもなる。次いで脳出血が18.7%、くも膜下出血が4.6%だ(日本脳卒中データバンク報告書2023年)。

 脳卒中は日本人の死因の第4位でもあり、最悪の事態は免れたとしても、発症すると脳の一部や神経が損傷する。その部位や範囲によって運動まひや感覚障害、言語障害、嚥下障害、高次脳機能障害(思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能の一部に支障が出ること)など、さまざまな後遺症や神経障害を抱えるケースが多い。

 脳卒中に加え、交通事故などで頭を打った場合や脊髄に傷を負った場合も同様で、脳や神経への損傷の影響で失った機能は、完全に元通りにすることはできない。だが、適切なリハビリを受ければ、残された能力を最大限に回復させることは可能だ。

 実際、冒頭で紹介した事例のように発症から半年以上経っても、寝たきりの状態から自力歩行ができるようになった例がある。発症しても「もうこれ以上回復することはできない」と簡単にあきらめてはいけない。

 ただし、そのためには適切なタイミングで、質の高いリハビリを受ける必要がある。そこで今回は、著名なリハビリテーション専門医や脳卒中専門医に取材し、全国の信頼できる「リハビリの名医と病院」を挙げてもらうとともに、最善のリハビリを実現するために必要なことを取材した。

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン