ある日突然、脳と心臓をめがけて襲ってくる「サイレントキラー」。たとえ命は助かっても、後遺症として失うものが少なくない。しかし、しかるべき処置を適切なタイミングで受けることができれば、打ち克って社会に復帰することも不可能ではない。最善の脳・神経系のリハビリについて、ジャーナリストの鳥集徹氏がリポートする。【前後編の前編。後編を読む】
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「脳梗塞を発症し、回復期にリハビリ治療を行った70代の女性患者は、うちの老健に紹介されたばかりの頃は一日中寝たきりで自力で起き上がれず、移動も車椅子介助でした。それでも、薬の量を調整して減らし、まひした下肢に装具をつけて、立って歩く訓練を積極的に行ったら、立ち上がって自力で歩くことが可能になりました。
彼女は発症から8か月経っていました。しかし脳の画像診断をしたら、それほど脳損傷は大きくない。だから、寝たきりになるはずがない、回復するはずだと判断したんです。家族もまた、治療を希望しました」
そう話すのは、ねりま健育会病院院長で、リハビリテーション専門医の酒向正春医師。脳神経外科医として脳卒中の急性期医療に携わった経験も持つ酒向医師の信念は、脳の状態を適切に診断し、失われた機能の最大限の回復をはかる「攻めのリハビリ」だ。
国立循環器病研究センターの調査(2010年の吹田研究)によると、5人に1人が生涯で一度は脳卒中を発症するという。脳卒中は脳の血管が血栓で詰まったり動脈から出血したりして、脳細胞の一部が壊死する病気の総称だ。「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つで、脳卒中の95%以上を占める。なかでも脳梗塞の発症率が最も高く、全体のおよそ4分の3(73%)にもなる。次いで脳出血が18.7%、くも膜下出血が4.6%だ(日本脳卒中データバンク報告書2023年)。
脳卒中は日本人の死因の第4位でもあり、最悪の事態は免れたとしても、発症すると脳の一部や神経が損傷する。その部位や範囲によって運動まひや感覚障害、言語障害、嚥下障害、高次脳機能障害(思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能の一部に支障が出ること)など、さまざまな後遺症や神経障害を抱えるケースが多い。
脳卒中に加え、交通事故などで頭を打った場合や脊髄に傷を負った場合も同様で、脳や神経への損傷の影響で失った機能は、完全に元通りにすることはできない。だが、適切なリハビリを受ければ、残された能力を最大限に回復させることは可能だ。
実際、冒頭で紹介した事例のように発症から半年以上経っても、寝たきりの状態から自力歩行ができるようになった例がある。発症しても「もうこれ以上回復することはできない」と簡単にあきらめてはいけない。
ただし、そのためには適切なタイミングで、質の高いリハビリを受ける必要がある。そこで今回は、著名なリハビリテーション専門医や脳卒中専門医に取材し、全国の信頼できる「リハビリの名医と病院」を挙げてもらうとともに、最善のリハビリを実現するために必要なことを取材した。