発症から治療までをいかに短縮するか
“最善のリハビリ”のためにまず知っておくべきは、患者自身や周囲の人が早期に兆候に気がつけるかどうかが、予後(その後の経過)を左右するということ。国の心血管疾患や脳卒中診療の中核施設である国立循環器病研究センターの副院長・脳血管部門長を務める豊田一則医師は、脳卒中の治療は「時間との勝負」だと話す。
「発症から時間が経過して、脳が受けるダメージが大きくなるほど、後遺症が重くなる確率が高まります。したがって、脳卒中を疑う症状があった際には、一刻も早く専門的な治療ができる病院で治療を受ける必要がある。自分や家族の体にどんな異変が生じたときに脳卒中を疑うべきか知っておくことが肝要なのです」
その認識を広めるため、日本脳卒中協会は「ACT-FAST」という合言葉を提唱している。「迅速な行動」を意味するが、F(Face=顔)、A(Arm=腕)、S(Speech=会話)、T(Time=時間)の略でもある。顔の片側が下がってゆがむ、片腕に力が入らない、言葉に異常があるなど突然の症状が1つでも出たら、本人や家族、周りの人はすぐに救急車を呼んでほしい。
ただし、専門的な治療ができる施設を持つ病院は限られている。時間との勝負であるにもかかわらず、かつては救急車が到着してもすぐには受け入れ病院が見つからず、治療への着手が遅れるなど、地域によっては脳卒中の医療体制に不備があった。しかし近年、そのような地域格差は解消されつつある。豊田医師が続ける。
「日本脳卒中学会では2020年から、血管に詰まった血栓を溶かす薬剤『t-PA』による脳梗塞の血栓溶解療法を24時間365日適切に行えるなど、一定の条件を満たした施設である『一次脳卒中センター(PSC)』の認定を開始しています。2024年5月末現在、全国に953施設あり、PSCに搬送されれば、適切な診断を迅速に受けることができる。脳梗塞で適用があった場合には、すぐにt-PAの点滴が開始されます」
豊田医師によると最近では、足の付け根などの血管からカテーテル(治療用の管)を入れて器具を操作し、閉塞した脳動脈の血栓を取り除く「血栓回収療法」も進歩した。発症の元凶である血栓が回収されれば、血流がすぐに復帰するため、後遺症の大幅な軽減も期待できる。そのため近年では、血栓溶解療法以上に治療件数が増加しているという。
この血栓回収療法を適正な人員を備えて24時間365日実施している施設を、学会はPSCの中から「一次脳卒中センター(PSC)コア」として認定している。
「血栓回収療法が必要と診断された患者さんは、一般病院や一次脳卒中センターからコア病院に移送する仕組みもできている。以前は地域によって格差があった急性期の脳卒中治療ですが、そうした制度によって少しずつ改善されつつあります」(豊田医師)