人情の街・西成は失われつつある

人情の街・西成は失われつつある

20年経っても保証会社の審査は通らない

 大前さんはYouTubeで『西成キンちゃんのワッショイTV』というチャンネルを開設していて、若いファンも来店する。外国人観光客も多く訪れ、ここ数年で西成の雰囲気は大きく変わったという。

 以前なら脛に傷を持つ人々が集う場所が西成だった。大前さんもまた暴力団の元組員という過去を持ち(20代半ばで脱退)、刑務所に服役後、紆余曲折を経てこの場所に辿り着いている。

「今の日本は刑務所を出所して、本気で更生しようと思っても社会の仕組みがそうはなってへんからね。家を借りようと思っても、まず貸してくれへん。やったら、社宅付きの仕事を探すとなると、こちらもハードルが高い。

 やる気はあるけど、何度も面接で拒否されると人は社会復帰の可能性に疑問を持ち始める。俺は必要とされてへんのやって。で、最終的に行き着くのが今も昔も西成。西成やと家を借りるのも保証人がいらんとか、ハードルが低いから必然とそんな人が集まってくる」

 暴力団排除条例には5年ルールといわれる、「元暴5年条項」がある。いったん暴力団関係者との認定が下されると、足を洗っても5年間は同様の扱いを受けるという規則だ。銀行口座開設から住居や携帯電話などの契約も不可とされる。

 大前さんは続けて、こう嘆息する。

「5年が経過していようが、賃貸物件だとまず保証会社は通らへん。いくら真面目に働いとっても以前の肩書き。暴力団におったら、それだけで大きな足枷になる。昨年、和歌山市で『淡路屋アロチ店』という居酒屋を出店したんやけど、保証会社には一発で断られた。

 こんな真面目に仕事を続けてもあかんねん。たまたま家主がYouTubeで俺のことを知ってたから、それで最後は貸してくれたけど、これが現実やと思う」

 西成には未だに貧困ビジネスまがいの業者がいるのも事実だ。本人名義で契約ができない人に住居を与える代償として生活保護を受給させ、少なくない額をピンハネする。そんなビジネスだ。

「結局、住む部屋の管理会社におんぶに抱っこの状態になる。ただ、その業者が悪いとはいっていない。そういう業者がおるからこそ、弱者の救済になっている面もある。本当に働けない人は支援すべきやけど、実際に20代後半の受給者もいる。健常者でも生活保護を受け続けると、労働の意欲は削がれるわね」

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