関節の痛みは体のメッセージ
下肢の関節痛を和らげるには「正しい歩き方」も意識すべし。広島市民病院副院長・整形外科部長で、スポーツ選手や中高年のひざの痛み治療に加え、軟骨の再生医療にも取り組んできた出家正隆医師が話す。
「歩いているとき、腰が曲がっている人はひざが伸びておらず、そのせいで関節が固まって痛みが生じます。ですから腰を曲げずに、ひざを伸ばすように歩くことが大切です。ひざのお皿の動きがよくなり、関節が柔らかくなって、痛みが改善されやすくなります。
ひざを伸ばすためには、お皿を動かすストレッチに加え、歩くときはかかとから体重を乗せてつま先が離れるまで地面を意識しながら大股で歩いてください。年をとると小股になりがちなので、しっかりひざが伸びません。目安は50cm幅くらいの横断歩道の横線。白い線を踏まずに歩いてくださいと患者さんに伝えています」
足腰の関節の痛みのせいで歩くことや日々の活動が制限されるようになると、筋肉は衰え、関節は動かさなければ徐々に固まっていく。そのため、無理のない範囲で適度な運動を続けることが大切になる。
介護予防やスポーツによる外傷の治療に取り組んできた新潟医療福祉大学健康スポーツ学科教授の大森豪医師が話す。
「ひざにかかわらず、関節の痛みは、『これ以上負担をかけないで』という体のメッセージです。痛みを感じたとき、『たくさん動かせば治るのではないか』と勘違いしている人もいますが、基本的には逆効果。かえって悪化してしまう場合もあります。
程度によりますが、関節に痛みや腫れを感じたら、無理がかかりすぎたと考えて、まずは安静にしてください。それ以上に負担をかけなければ、徐々に落ち着くはずです。数日安静にしても治まらないときには、整形外科を受診して正しい診断と適切な治療を受けることをおすすめします」
ひざや股関節の痛みの予防には適度な運動に加え、体重を減らすことも大切だ。体が重ければそれだけ関節にかかる負荷が大きくなり、痛みが悪化することになる。大森医師が続ける。
「年をとるにつれて足腰の関節の問題を抱える人は増えてきます。また、日本人はO脚の人が多く、ひざの内側に余計に負担がかかる構造になっているため、中年以降のひざ痛の原因になります。さらに、股関節では生まれながらの関節の形(股関節形成不全)がその後の股関痛の原因のひとつとされています。こうした年齢や生まれ持った要素は変えることができません。
一方で筋力や体重は患者さん自身で変えられる要素です。何もしなければ、年齢とともに筋力は低下し体重も増えていく。ですから、適度な運動を続けて筋力や適正な体重を維持することが大切です」
関節痛に悩む患者の中には肥満に加え、糖尿病を併発している人も少なくない。痛みを改善するには、減量と同時に糖尿病を治療することも重要だと戸田医師は強調する。
「糖尿病を発症すると神経に栄養を運搬している血液の流れが悪くなり、痛みが持続します。緩和するために私がおすすめしているのが、食後1時間以内に坂道や階段をのぼることです。『食事のすぐ後は動きたくない』と億劫に思う人は多いと思いますが、食後1時間以内は血糖値が上がり、血管が傷つきやすい。体を動かすことで血糖値が下がり、血管への負担も減って関節痛が緩和されるうえ、肥満対策にもなります」
痛みが強く坂道や階段をのぼるのが難しい人や、外に出る機会のない人は、食後にストレッチをするなどして少し体を動かすだけでもいい。戸田医師のアドバイスを実践してみてほしい。
(後編に続く)
※女性セブン2024年6月20日号