プロ野球審判を38年務め、史上19人目となる3000試合出場を達成した橘高淳氏。2022年に引退した(撮影/杉原照夫)
正しいジャッジなのに叩かれる
そうはいっても、「やはり抗議されるような場面は精神的につらい」と本音を明かす。
「審判は正しくジャッジして当たり前ですから、褒められることはありません。逆に判定を間違えれば袋叩きにあいますが、それは審判の宿命なので仕方ありません。ただ、正しいジャッジをしているのに叩かれるのは理不尽に思いましたよ(苦笑)。
関西ではとりわけ阪神に肩入れするメディアが多いですから、特に甲子園で阪神に不利な判定をすると翌日のスポーツ新聞には悪意ある写真がよく掲載されました。ビデオ判定までしているのに、〈疑惑の判定〉なんて見出しも付きます。〈微妙〉くらいなら気にしませんが、さすがに〈疑惑〉とか〈誤審〉とか書かれるのは釈然としませんし、それが一人歩きすると立場的にも問題が出かねない。自分の判定はもちろんですが、同僚のジャッジについて書かれても腹が立つことがありました」
(第5回に続く)
※橘高淳氏の「高」の字は正しくは「はしごだか」。『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。プロ野球、サッカー、柔道、大相撲など8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が5月31日に発売。