それに対し〈今後は、力道山門下生というようなことは一切名乗ってほしくありません〉という文面は大きな反響を呼び、猪木が敬子に詫びを入れる〈和解式〉にまで発展するが、肝心の当人が、〈(書いたのは)東スポの人じゃないですか〉と言うのだから、歴史とはつくづく面妖である。
「それこそ今、『虎に翼』が話題ですけど、自分の与り知らない所で事が動いたり、女だからと舐められたり、莫大な借金や前妻の子供達まで抱えて生きていくのは本当に大変だったと思う。でも、そのわりに本人は淡々としていて、この作品が小学館ノンフィクション大賞の最終候補に残った時も『あたし、目立ちたくないのよ』って。えっ、今更? と少し焦りました(笑)」
自身、数々の職を転々とした末に、ノンフィクション作家に転じた経緯について「どこから、何をどう話せばいいか、わからなくなるくらい複雑で」と笑う。
「ノンフィクションって『人物を描くか、時代を描くか』なんて言う人がいるけど、人物を描こうと思えば必然的に時代も描くことになるんです。今起きていることは明日には過去になって、10年経てば歴史になる。当分はノンフィクションと向き合ってみようと思いますけど、5年後は……わかりません(笑)」
「とりあえず戦後史がテーマ」という細田氏の喋りは、例え話ひとつとっても多彩で、まさに神が宿りそうな細部や余談の向こう側にこそ、時代の顔は覗く。
【プロフィール】
細田昌志(ほそだ・まさし)/1971年岡山市生まれ、鳥取市育ち。鳥取城北高校卒業後、キックボクシングのリングアナウンサーやスカイパーフェクTVの格闘技番組のキャスター、また放送作家として『5時に夢中!』(東京MX)等を手がけたのちノンフィクション作家に。2021年に『沢村忠に真空を飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修評伝』で第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞、また昨年本作で第30回小学館ノンフィクション大賞を受賞した。173cm、65.3kg、O型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2024年6月21日号