この流れは同じ「金曜ドラマ」で17年前に放送された『歌姫』(TBS系)とほぼ同じであるなど、記憶障害を扱った物語の定番。「切なさを感じさせるか、冷めてしまうか」の紙一重であり、反響は限定的なものに留まっています。
そもそも『9ボーダー』は、「19歳・29歳・39歳」3姉妹の3L(LOVE、LIFE、LIMIT)がテーマの作品だけに、記憶障害の設定が占める部分が小さく、それでいて「かぶりを指摘される」という不運なところがありました。
多面的『アンメット』と考察『くるり』
『アンメット』は、不慮の事故で脳に損傷を負い、「過去2年間の記憶が抜け落ちた上に、今日のことは明日になるとすべて忘れてしまう」という記憶障害のある脳外科医・川内ミヤビ(杉咲花)が再び医師として歩きはじめる物語。他3作がラブストーリーにおける記憶障害を扱っているだけに、その点で差別化できていました。
さらに、消えた2年間の記憶の中にある、さまざまな謎や真実、人間関係を解明していくミステリーとしての醍醐味もあり、その他でも週替わりでさまざまな脳の障害が扱われるなど、多面的にフィーチャーすることで「かぶり」の印象はほとんどありません。そもそも4作の中では唯一、漫画原作のある作品で、杉咲花さんの繊細な演技もあって、ネット上の反応も好意的な声が大半を占めています。
そして、今春の記憶障害という設定に関して、最も視聴者の反応がいいのは『くるり』。放送前は「記憶を失った主人公の緒方まこと(生見愛瑠)とタイプの異なるイケメン3人のよくあるラブストーリー」という印象を与えていました。
しかし、はじまってみると記憶障害をきっかけに、「人に嫌われないよう素を見せずに生きてきた自分の人生を生き直す」「本当の自分らしさを探していく」という人生ドラマの要素がフィーチャーされ、見応えが格段にアップしました。
そして終盤には、「元カレ」と語る西公太郎(瀬戸康史)、「唯一の男友達」と語る朝日結生(神尾楓珠)、「運命の相手」と語る板垣律(宮世琉弥)の謎と嘘をめぐる展開が加速。まことは律とつき合っていたことや公太郎が元カレではないことなど、昨年のクリスマスまでの記憶がよみがえりました。しかし、クリスマスから春までの記憶が戻っていないことから、ネット上には「その間に律と別れていたのではないか」「実は公太郎が好きなのではないか」などの予想が飛び交っています。