船橋市議を辞して、2016年の都知事選に立候補した立花孝志氏(2016年7月撮影:小川裕夫)
浮動票が多い東京都
本来、選挙は政策競争でなければならないが、街頭演説や政見放送で真面目に政策を訴えても有権者に浸透しない。
また、選挙には権力闘争の側面もある。政党間による駆け引き、業界団体のしがらみがなど、いくつもの利権が複雑に絡み合って、組織票が動く。
さらに東京都は無党派層の有権者が多くを占め、浮動票も選挙戦を左右するので人気投票といった一面もある。
実際、お茶の間に顔が知られている有名人が選挙に出馬すると、街頭演説には多くのギャラリーが集まる。握手を求めて黒山の人だかりができたり、一緒に写メを撮ろうと長蛇の列ができたりする。多くのギャラリーが集まれば、政策を広めやすく、支持を得られやすい。
現職の小池百合子氏はニューキャスターから政界に身を投じた。蓮舫氏もグラビアアイドルとして活躍し、その後はニュース番組のキャスターを務めた。清水国明氏も「噂の!東京マガジン」といった時事問題も扱うテレビ番組で活躍している。
YouTubeやTikTok、Instagramといったネットの発信力が力を増している2024年においても、テレビに多く出演してお茶の間に顔を知られていることは選挙でプラスに働く。顔も名前も知らない候補者は、街頭で演説をしても道行く人たちに見向きもしてもらえない。どんなに素晴らしい政見を訴えても有権者の耳には届かない。選挙において知名度がない候補者は、大きなハンデキャップを負っている。
簡単には成功しない「売名」
筆者は有名・無名、政党支援の有無といった候補者のステイタスによらず、時間・体力・財力の許す限り多くの候補者を取材しようと努めてきた。なかには届出だけして選挙活動をしない候補者もいる。特に、都知事選は候補者が多く乱立するので、選挙期間中に会えない候補者は少なくない。
そうした候補者は当選する可能性が低く、一般的に“泡沫候補”と呼ばれる。筆者は候補者に対して敬意を払って”泡沫候補”という呼称を使わないことにしているが、なぜ当選する可能性が低いのも関わらず立候補するのだろうか。