2011年の都知事選に立候補したマック赤坂氏の街頭演説。渋谷を行き来する若者たちは完全に素通りしていた(2011年3月撮影:小川裕夫)
すぐに思い浮かぶ理由は、都知事選に立候補することによって知名度を上げることだろうか。平たく言えば、“売名”ということになるが、よくよく考えれば都知事選に立候補しただけで世間に名前を売ることはできないことは誰でも理解できる。政見放送をきっかけに注目を集め、売名に成功したと言える人がいないわけではないが、ごく一部だ。売名なら、先にSNSで人気になることを狙った方がコスパはいい。
過去5回の都知事選に遡ると2007年が14名、2011年が11名、2012年が9名、2014年が16名、2016年が21名も立候補しているが、当選者以外で名前を覚えている人は何人いるだろう。相当な政治通・選挙マニアでなければ、せいぜい1人か2人だろう。都知事選後、大半の候補者は人知れず日常生活へと戻っている。都知事選に出ただけで、売名なんてできないのだ。
それでも、母数が多ければ少数でも支持者や共感者を得られる可能性はある。移り気な多数よりも、確実に寄り添ってくれる仲間を見つけやすい。ただ、それは当選することを必ずしも目的としないやり方だろう。
選挙は究極の消去法
数少ない例外ながら、私が取材したことがある独力で戦った候補者でも後に晴れて議員になった人物もいる。
2019年に東京都港区議会議員選挙に当選したマック赤坂氏と2023年に宮崎県宮崎市議会議員選挙に当選したスーパークレイジー君氏(2024年に辞職)だ。
NHKから国民を守る党を一人で立ち上げ国政政党にまで押し上げた立花孝志氏も2016年の都知事選から取材をしている。当時の立花氏は世間から注目されるような存在ではなかったが、それでも2015年に船橋市議会議員に当選していた。そうした経歴を勘案すると、ほかの都知事選候補者と同列には論じられない。
街頭で選挙活動をしていても、通りすがりの人たちに冷笑・罵倒・無視をされ続けながらも彼ら・彼女らが都知事選に出る動機は何なのか? 都知事選の供託金は300万円。ポンと出せる金額ではない。だからと言って、金持ちの道楽で選挙をしているわけでもなく彼らなりに本気だ。当選するつもりがあるのかはっきりしないように見える立候補者が数多く出現する東京都知事選挙は、多様で複雑になっている社会を象徴していると言っていいだろう。