任期満了に伴う東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)へ向け、沈黙を続けてきた小池百合子知事(71才)がついに出馬を表明。もっとも強力な対抗馬とされている蓮舫氏(56才)ほか、YouTubeを駆使して議会の悪習を世に問い、わずか4年で財政を健全化させた広島県安芸高田市の元市長・石丸伸二氏(41才)から“迷惑系ユーチューバー”のへずまりゅう氏まで、あらゆる候補者が乱立し、その数は40人以上。
過去最多と言われ、「ポスターを貼る場所は足りるのか?」と懸念する声も聞こえてくるほど多数の候補者の中でも、異彩を放っているのが「テクノロジーの力で誰も取り残さない東京にアップデートする」などの政策を掲げる安野貴博氏(33才)だ。安野氏は『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など多数のテレビ番組に出演し、岸田文雄首相(66才)の「AI戦略会議」に招かれ、AIを使った岸田氏の「声まね」を披露して大きな注目を集めた若手AIエンジニアだ。2022年には「ハヤカワSFコンテスト」で優秀賞を受賞し、作家デビューを果たす。過去にはAIスタートアップ企業を2社創業した起業家としての一面も持つ。
掲示板にポスターを1枚ずつ貼り、街頭に立って演説し、支持者一人ひとりと握手を交わす────「票数は握った手の数で決まる」とも言われる”アナログの極み”である政治の世界に、なぜテクノロジーの最先端を走る若手エンジニアが名乗り出たのか。
東京の超名門・開成高校を卒業後、東京大学に進学。AI研究の松尾豊研究室を経て外資系コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループに就職────物心ついてからのほとんどの時間を「都民」として過ごしてきた安野氏だが、都政の在り方に違和感を覚えることも多かったという。
「自分たちが一票を入れた後、それがどう反映されて行くのかが不透明に感じられました。実際、今回出馬するにあたって国会議員や都議の方にヒアリングしたところ『自分が有権者から何を託されているのかわからないというのが本音』という意見も少なからずあった。そうした状況をテクノロジーによって変えていけるのではないか、有権者の意見をもっと吸い上げることができるのではないかと思ったのが、立候補の大きな理由です」(安野氏、以下同)
安野氏は政策提言のひとつとして、ソフトウェア開発ソフト「GitHub」で政策を管理し、誰でも変更を提案できる仕組みを用意するなど「政策のオープンソース化」を掲げている。
「自治体で行う手続きのデジタル化も推進したい。私の周囲にはパパやママとして子育てをしているかたがたくさんいるのですが、1回の出産で何枚もの書類を書かなければならない。また、今回の選挙で候補者として都庁に審査に行った時も数十枚の書類を受け取る必要があり、データで納品することもできなかった。そうした手続きにかかる負担は、デジタル化を推進することで大きく軽減されると思っています。
企業や組織でデジタル化がうまくいかない大きな理由は技術の問題ではなく『なんとなく腹落ちしない』『デジタル化する意味がわからないからこのままやりたい』といった意思決定の権限を持つ人の気持ちの問題にあることが多いんです。オンラインでチャットやリモート会議ができる情報共有ツール『Slack』や『Teams』などみなさんが普段会社で使っているアプリの性能と公共サービスの使いやすさが大きく違うことも、問題視しています。都知事は首長として広範囲に意思決定権があるため、そうした状況をいい方向に変えることができると考えています」