肺がん検査はそれ自体ががんリスクを上げるという指摘も。
「あなたはがんです」に伴うストレス
そうした「過剰治療」に加え、がんを見つけ出すことそのものが大きな負担を生むケースもある。主婦のOさん(58才)は、80代の父親に検診を受けさせたことを悔やんでいると打ち明ける。
「泌尿器科で前立腺がん検診を受けたところ、がんが見つかりました。高齢ですし、そこまで大きいがんではなかったから手術の必要はないと経過を見守ることになったのですが、父はがんだと宣告されたことがショックで落ち込み、不安に駆られた結果心身共に弱っていって、いまは寝たきりに近い状態です。
経過観察のために病院に通うのも体の弱った父にとっては大きな負担になっていて、見つけ出さなければこんなことには……と後悔しています」
名取さんは、がんの発見に伴うストレスは寿命を縮めかねないと指摘する。
「がんと診断されることで受ける心理的な負担は、患者さんが想像している以上に大きいことが多いです。経過をみるための通院は心身共に消耗するうえ、手術をしても『再発するかもしれない』と、不安が残る。実際、がんの宣告を受けた人は不安の兆候が多いという心理試験のデータもある。“不安の種”を生まないためにも、厚生労働省が推奨している乳がん・胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん以外のがん検診は、基本的におすすめしません。
韓国では積極的に甲状腺がん検診が行われた結果、命に影響がない小さな腫瘍まで見つかり、甲状腺がん患者がおよそ20年間で約15倍に増えるという事態が発生しました」
がんが発見されなかったとしても、受けたこと自体が新たなリスクを生む検診もある。新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが解説する。
「代表的なのは、胸部X線による肺がん検診です。胸の正面から放射線を照射するので、肺全体が被ばくします。定期的に胸部X線検査を受けていた人は、受けていない人に比べてはるかに肺がんが多く、死亡率も高いという研究結果があるほどです」
(後編へ続く)
※女性セブン2024年7月4日号