「2人に1人」「日本人の死亡理由1位」──最悪の場合、死に至る“国民病”であるがんの研究は日進月歩。手術から抗がん剤まであらゆる方法が進化を遂げ、根治することも可能になった。しかし、がんが消えたとしても体調が悪化する「不都合な治療」も存在する。寿命を延ばすための行為が逆効果とならないよう知っておくべきことがある。【前後編の前編。後編を読む】
「もしあのときがんを切除していなければ、母はまだ生きていたんじゃないか……三回忌が終わったいまでも、ふと考えます」
ため息をつきながらそう話すのは2年前に母を看取った東京都在住の会社員Uさん(48才)。Uさんの母は75才のときに受けた人間ドックで甲状腺がんが見つかり、すぐに手術を受け、切除した。
「がんは根治したものの、手術による体への負担が大きく、半年もたたないうちに寝たきりになり1年後に亡くなりました。特に手術の後遺症で声がうまく出なくなり、趣味のカラオケも楽しめなくなって、寂しい最期でした。後から甲状腺がんは進行が遅いと知って、こんなに早く逝ってしまうなら治療せずに見守る選択肢もあったのではないかと後悔してやみません」
一生のうち2人に1人が罹患し、日本人の死因として最も多い国民病であるがんは「早期発見・早期治療」が要であると繰り返し喧伝されてきた。しかし、Uさんの母のように治療することが寿命を縮める「不都合ながん」は少なくないと、ひらやまのクリニック院長で介護施設を中心に診療を行う医師の森田洋之さんは指摘する。
「がんの部位や進行度、タイプ、年齢、体調、ライフスタイルなどによっては、治療がかえって悪影響を及ぼすケースがあります。にもかかわらず、がんだと診断されれば多くの人は手術や薬物療法を受けることを選択する。そうした過剰な治療や不適切な医療は大きな問題であり、どんながんでも見つかったら直ちに治療すべきとする風潮は改めるべきです」