「実験協力者が勝手に解釈しない」のはすごく難しい
文章を書くとき、「何回説明しても伝わらない」を避けるテクニックみたいなものはあるのだろうか。
「私は長年、心理学の実験をやってきたんですけど、実験するときすごく大事なポイントが一つあります。それは、いかに実験協力者が指示を勝手に解釈しないように、こちらの求めることを誤解なくしてもらうかということ。当たり前のように聞こえるかもしれませんが実はすごく難しくて、例えば協力者は大学生が多いんですが、常に指示を読み違えて勝手なことをする人が出てきます。それをいかに防ぐか。相手が子どもになると、それはさらに難しくなります。
だから、こういう質問の仕方をすると人は誤解する、ということを常に意識していますし、こちらの意図を押し付けるのでなく、相手の考えを先回りして、相手の反応を見ながら微調整していく。ずっとそういうことをしてきたので、本も、これまで実験で注意してきたことを書いただけとも言えますね」
今年1月2日に羽田空港で起きた旅客機と海上保安庁の航空機の事故やハドソン川に不時着した旅客機の事故を取り上げたり、将棋の棋士の本を読んだり、ありとあらゆる事象にアンテナを広げ、認知心理学の研究対象になるものがあればあまねくキャッチしている。
「朝、出かける前にテレビでニュースを見て、あとは新聞のデジタル版を見るぐらいですが、犯罪事件が報道されるとやっぱり、なんでそういうことをしたんだろうと考えますね。羽田の事故もそうですし、『ハドソン川の奇跡』事件はかなり追っていて、本も映画も見ました。究極の判断をするために人はどういう学び方をするのかということをずっと考えているので、美術展に行ってもコンサートに行っても、考える種(シーズ)はいくらでもあります。
今の学生たちは、テレビを見ないし、新聞も購読しない人が多い。情報はネットで充分だと言うんですけど、情報というのは自分の外にあって、どう取り込んでどう解釈するかは自分なんです。情報を読めば理解できる、と若い人が考えがちな点は気になっています」
【プロフィール】
今井むつみ(いまい・むつみ)/慶應義塾大学環境情報学部教授。1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。1994年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『ことばと思考』『学びとは何か』『英語独習法』『ことばの発達の謎を解く』など。共著に「新書大賞2024」大賞を受賞した『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』などがある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2024年7月4日号