「いい眺めだったなと思います」──ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平(29才)は6月22日、3試合連続となる23号特大ホームランを放った後のインタビューで、自身の打球をそう振り返った。
いまの大谷には、真剣勝負の最中に高々と舞い上がった放物線を眺める余裕がある。例年6月は調子の上がる大谷だが、今年は苦戦していた。6月前半は打率が低下し、ホームラン王争いでもトップと差が開いていった。だが打席に入る前のあるしぐさをきっかけに、本来の姿を取り戻した。
「軽く素振りした流れでバッターボックスに立つのが、これまでの大谷選手のルーティンでした。それが6月に入ったあたりから、素振りを途中でとめる“半端”なハーフスイングに変えました。そして14日のロイヤルズ戦からは、バットを使ってベースからの距離を測り、立ち位置を確認するしぐさも必ず行うようになりました」(スポーツ紙記者)
2つのルーティンを変更した大谷の打率は上昇。ホームランも直近7試合で6本(24日現在)と量産体制に入り、ホームラン数でリーグトップに躍り出た。大谷の新ルーティンはSNSでも話題を呼び、「世界中がマネをする」と注目を集めた。バットを使って距離を測るルーティンの意図を、大谷は“毎回同じ位置で構えるため”と明かした。アスリートのメンタルをサポートする公認心理師の衣川竜也氏が、ルーティンの心理的効果を解説する。
「トレーニング次第では、一種の“暗示”として使うこともできます。例えば意識的に集中状態を作った上で、一定の動作を行う。これを繰り返すうちに、その動作をするだけで、意識せずとも集中状態に入れるようになります。これは動作が心理状態とひもづく“神経可塑性”という脳の働きによるものです。専門家の下でトレーニングをしていなくても、自己流で始めたルーティンが、結果的に集中力を引き出す動作として確立するケースもあります」