「小さい頃に読んだ物語、たとえば『小公女』とか『秘密の花園』とかの主人公になった気分でしたね」──1985年にデビューし、俳優としても歌手としても大活躍。“ナンノ”の愛称で親しまれる南野陽子は自身のアイドル時代をそう振り返る。「そう言うと、いい意味にとられないかもしれませんけど……」と笑いながらも正直に自分の気持ちを話すところがこの人らしい。
「『シンデレラ』もそうですが、ヒロインが登場する物語って必ずハプニングに巻き込まれて、それを抱えながら前に進んでいきますよね? 私の場合はアイドルを目指していたわけではなかったので、『デビューしませんか』と言われて、まず驚いて。そのことを両親に話したら大反対されて、つい『私の人生でしょう!』って反発してしまったんです。自分ひとりで生活できる自信なんてなかったのに(笑)」
親に反対されると、かえってやりたくなってしまうのは10代なら誰でもあること。当時、高校生だったナンノは1984年の夏に出身地の兵庫から上京し、ひとり暮らしを始める。17歳だった。
「親にそう言って出てきた以上、何か結果を残さなきゃと。当初はまったく仕事がなかったので、学校帰りに、ひとりで出版社や放送局にご挨拶に行きました。歌に関してはそれまで人前で歌ったことがなくて、デビュー曲のレコーディングはあまりにも恥ずかしくて声が出せず3日目でようやく歌えた。
それを見ていた作詞家さん(康珍化さん)がタイトルを『天使のハンカチーフ』から『恥ずかしすぎて』に変更してくれました。振り返ると39年間、いろんな方のお力を借りながら、ここまで来られたという感じです」
周囲をパッと明るくする華やかな美貌。アイドル時代から変わらぬ可憐で上品な佇まいはスターの資質そのものに思えるが、意外なことに本人は自己評価が低いようだ。
「今もそうですが、これならうまくできる!と思えることがひとつもないの(笑)。それが『等身大でやっていこう』という考えに繋がったのでしょうね。もちろん一生懸命やるんだけど、ほかのアイドルさんのようにカッコいいことができなかったから」