国内

【追悼】徳田虎雄さん 原動力となった「医療に革命を起こそうとする意志」 戦友が明かす「手についたぎょうさんの傷」への思い

「徳洲会」創設者・徳田虎雄氏。86歳で亡くなった(時事通信フォト)

「徳洲会」創設者・徳田虎雄氏。86歳で亡くなった(時事通信フォト)

 医療法人「徳洲会」の創設者で、元衆議院議員の徳田虎雄氏が7月10日の夜、神奈川県内の病院で亡くなった。享年86。その人生に迫る評伝『ゴッドドクター 徳田虎雄』の著者でノンフィクション作家の山岡淳一郎氏が、徳田氏の「医療に革命を起こす意思」を振り返り、追悼を寄せた。

 * * *
 徳洲会の創設者、徳田虎雄氏の訃報をメディアが伝えるよりも早く、7月11日の未明に一通のメールが送られてきた。訃報を筆者に知らせてくれたのは、徳洲会のナンバーツーとして十数年間、徳洲会の運営に携わった盛岡正博氏(現・佐久大学理事長)だった。短い文面だったが、ポッカリと心に穴があいたような寂しさが漂ってきた。

 徳洲会は、傘下に76の病院と、診療所や介護事業所など300以上の施設を抱える日本最大の民間病院グループだ。職員数は約4万人、年商は5300億円を超える。救急医療の地域への貢献度は高く、1月に能登半島地震が発生した直後、被害が大きな輪島市にまっさきに駆けつけた医療支援チームは「TMAT(Tokushukai Medical Assistance Team)」だった。

 この巨大な医療インフラを一代で築いた徳田氏が、7月10日の夜、逝去した。86歳だった。64歳でALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、身体が動かなくなり、声は出ず、瞼を開ける力も衰えて寝たきりだったことを思えば、ようやく楽になれたかな、とも感じる。

 すでに多くのメディアに追悼記事や、人物評が掲載されているが、徳田氏を医療の「善」と政治の舞台裏での「悪」の二分法で語り、相変わらず「異端者」扱いしているようだ。

 しかし、人間の行動は、善か悪か、白か黒か、単純に分けられるものではない。白とも黒ともつかない領域が重なり合って人は生きている。

 鹿児島県の奄美群島の徳之島で育った徳田氏が医師を志した根底には「怒り」があった。

 虎雄少年が、小学3年のとき、粗末な藁ぶきの家のなかで、3歳の弟が激しい嘔吐と下痢をくり返し、衰弱した。虎雄少年は、夜中に母に「お医者さんを呼んできて」と頼まれる。真っ暗な山道を2キロも駆けて医者に往診を頼みに行くが、貧しくて来てもらえず、弟は死んだ。虎雄少年は悔しさと怒りに包まれる。

〈医者は急病のときに患者を診ないといけない。医者は患者を診るためにあるもので、どういう人でも助けるのが医者のはずだ。私は医者になったら、困っている人をできるだけ助けるんだと、そのとき子ども心に決心した〉と自伝『生命だけは平等だ―わが徳洲会の戦い』に記している。

 徳田氏は、怒りをバネに医者になる。大阪大学医学部を卒業すると、自分の生命保険金を担保に、大阪府松原市のキャベツ畑だった土地を購入し、1973年に「徳田病院」を開く。間を開けず、「徳洲会病院」を次々に設立していった。

 その原動力は、医療に革命を起こそうとする意志だった。

 徳洲会が急速に病院を増やした1970~80年代、日本の医療は腐っていた。

 開業医は「患者が医者の都合に合わせて当然」と休日や夜間の急病人を診なかった。大学病院も、医師や看護師の負担が大きい救急患者を受け入れない。都道府県医師会を統率する「日本医師会」は、国会議員と厚生省(現・厚生労働省)の官僚を相手に医師の人件費に当たる診療報酬の引き上げ運動に明け暮れる。

 厚生省は、医師会に屈して1974年2月には診療報酬を平均19%も引き上げたが、国民が望む救急医療には十分な報酬をつけず、採算がとれないまま放置した。そのツケは患者に回される。全国各地で、救急車が患者の受け入れ先を見つけられず、立ち往生した。患者がたらい回しにされている間に命を落とすことも珍しくなかった。

 そうした状況に、徳田氏は「(この世には貧富の格差や差別はあるが)生命だけは平等だ」「年中無休、24時間診療」と声を張り上げ、関西、九州・沖縄、関東などの「医療沙漠」と呼ばれる無医地区に病院を建てていく。

 徳洲会が進出する地域の医師会は、“メシのタネ”である患者を奪われると怯え、自治体に圧力をかけてその計画を潰そうとした。だが、地域の住民は医療を渇望しており、徳洲会は民意を受けて病院の建設用地を確保する。各地で医師会と激闘をくり広げた。

関連記事

トピックス

フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《離婚後も“石橋姓”名乗る鈴木保奈美の沈黙》セクハラ騒動の石橋貴明と“スープも冷めない距離”で生活する元夫婦の関係「何とかなるさっていう人でいたい」
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
休養を発表した中居正広
【独自】「ありえないよ…」中居正広氏の実兄が激白した“性暴力認定”への思い「母親が電話しても連絡が返ってこない」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン
新年度も順調に仕事を増やし続けている森香澄
《各方面から引っ張りだこ》森香澄、“あざとかわいい”だけじゃない「実はすごいアナウンス力」、「SNSの使い方はピカイチ」
NEWSポストセブン
4月7日、天皇皇后両陛下は硫黄島へと出発された(撮影/JMPA)
雅子さま、大阪・沖縄・広島・長崎・モンゴルへのご公務で多忙な日々が続く 重大な懸念事項は、硫黄島訪問の強行日程の影響
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン