伊丹作品を「非配信」で貫く理由
創作の自由を手放さない立場を維持しただけでも驚異的だが、伊丹映画の魅力はその多様で新奇なテーマ性にもある。入念に取材を重ね自らシナリオも書いた伊丹の原動力について、現在、伊丹プロダクションの代表取締役社長を務める次男・池内万平氏が語る。
「要は“好奇心の人”なんでしょうね。新しいものが好きでしたし、常にいま何が起こっているのかに注目している人だったと思います。よく母も世間話で『父ちゃんだったら絶対映画にしてたわね』みたいなことを言うんですが、いまだったらコロナやオリンピックのごたごたは映画にしたかもしれない。絶対ワクチンに詳しくなったはず(笑)。『マルサの女』のときは、中学生の自分に間接税がどうこうみたいな話を延々としていましたから。まだ消費税も始まってない頃ですよ」
伊丹プロダクションのように監督作すべての権利を自分たちで有しているのもまれだろう。玉置氏は、いまや全盛となった動画配信サービスに伊丹映画がない理由も教えてくれた。
「僕らからすると、配信は映画の“垂れ流し”に近いんです。洪水のように作品があって、ものすごい量の選択肢。観るほうは便利かもしれないけど、その中から選ばれなければいけない。そうじゃない、もっと大事に1本1本を観てもらえるような形の配信があれば、それは考えていきたいです。また配信の次の時代に変わる可能性もある。だから慌てる必要もないのかなと思っています」
作品の送り手として深く考えた結果だった。10本もの映画を遺した伊丹だが、今後、新作が作られることはない。だからこそ“品位”を保つべく、あえて配信には“乗らない”。こうしたブランディングも、伊丹プロダクションが10本すべての権利を握っているから実現できたこと。