(時事通信フォト)

今年4月に甲子園球場で実施された全国審判講習会。女性審判員も参加した(時事通信フォト)

 スタンドに詰めかける保護者やOBたちは、選手以上に過敏に反応する。球児が判定に不服そうな態度を示すようなシーンは滅多にないが、微妙なジャッジに対するスタンドからの野次はかなり激しい。激戦区の準決勝や決勝であれば、ミスジャッジによって勝負が決まろうものなら暴動が起こりかねない。

 実際、高校野球ファンのインターネット掲示板には、〈〇〇審判のせいで負けた〉〈選手の将来を潰した××球審〉などといった激烈な批判の書き込みが少なくない。公式戦の大半をリーグ戦が占めるプロ野球や大学野球では、ここまでの批判は起こらないだろう。

 そうしたプレッシャーの中でジャッジする審判員。とりわけ難しい場面を訊ねると、内海は「1対0の9回ウラ。2死満塁、フルカウント」と答える。

「打者に“ヒットでもいいしアウトでもいい。空振りでもいい。何としてもバットを振ってくれよ”と祈る気持ちで構えます。ストライクにもボールにも判定できるような際どいコースを見送られたら、私がどちらかをコールしなければならない。そしてどちらかのチームの選手と観客から恨まれてしまう。“それだけは勘弁してくれ”という気持ちです」

 内海は「審判は黒子に徹しないといけない」と語る。

「審判が注目を集めるのはジャッジを間違えた時です。プロ野球でも“素晴らしいゲームは、審判がいたのかどうかわからない”と言われるそうです。私もそれが理想だと考えています。それは県大会の1回戦でも、決勝戦でも同じ。そういう覚悟で臨んでいます」

第3回に続く

※『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。高校野球の審判員のほか、柔道、飛び込みといった五輪種目を含む8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が好評発売中。

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