夏=「軽く明るく楽しい」ではない
次に、なぜ夏らしい“軽く明るく楽しい”ムードの作品にしなかったのか。
実際のところ“軽く明るく楽しい”ムードの夏ドラマでヒット作とされているのは、前述した『ビーチボーイズ』に加え、『WATER BOYS』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(すべてフジテレビ系)あたりで、それほど多くありません。
逆に、復讐劇の『半沢直樹』(TBS系)、パート主婦と教師の不倫を描いた『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)、テロ組織との戦いなどを描いた『VIVANT』(TBS系)など“重く暗く辛い”ムードのヒット作は夏に放送されました。
また、『海のはじまり』と同じスタッフが手がけた『silent』や、高視聴率を連発するTBS日曜劇場の『テセウスの船』『マイファミリー』『アンチヒーロー』などを見ても季節を問わず「ヒット作ほど“重く暗く辛い”ムードの作品が多い」という現実があります。
これらの作品は「序盤の“重く暗く辛い”ムードから、徐々に物語を進展させて期待感を高め、感動のクライマックスにつなげていく」という約2か月半放送される連ドラの醍醐味を最大化していました。その意味で『海のはじまり』も徐々に感動への期待感が高まり、クライマックスに向けて盛り上がる可能性は十分ありそうです。
ネット上には、「水季と弥生が同じ2016年12月に、同じ産科クリニックへ通い、ともに中絶という判断を下していた」こと。しかし、「水季は出産し、弥生は中絶するという正反対の選択をし、もし弥生も出産していたら海と同じ年齢だった」ことを指摘する声があがっています。
今後、水季と弥生が病院でニアミスしていたシーンが描かれるかもしれませんし、まだまだ“重く暗く辛い”ムードは続きそうですが、逆にだからこそ見る価値の高い作品なのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。