スポーツ

篠原信一が「銀」に泣いたシドニー五輪「世紀の誤審」から24年 柔道界の鉄人が指摘する「国際試合ならでは」の事情

(時事通信フォト)

2000年のシドニー五輪柔道100キロ超級決勝。篠原の「内股すかし」はドゥイエの「有効」と判定され篠原は敗れた(時事通信フォト)

 パリ五輪の開幕が目前に迫るなか、大会初日(日本時間27日)から8月3日まで、連日予選と決勝が行なわれる柔道に注目が集まっている。日本選手団のメダルラッシュが期待されるが、五輪をはじめとする国際大会では、日本人選手が審判の判定に苦しみ、泣かされてきた過去がある。なぜ、そうした事態が起きるのか。かつて選手、指導者、審判員の“三刀流”を長く続けたことから「柔道界の鉄人」と呼ばれた正木照夫氏に、『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が聞いた。(文中敬称略)

 * * *
 日本古来の柔術をベースに誕生した柔道は、いまや「JUDO」として世界200以上の国・地域に競技登録者がいる国際メジャースポーツとなった。

 柔道が世界に広く知られるようになったきっかけは、1964年の東京五輪で正式競技に採用されたことにある。当時は27カ国・地域からの参加だったが、2度目の東京五輪(2021年)では128カ国・地域に拡大した。

 発展に寄与したのが「ルール変更」だ。1968年のメキシコ五輪で「世界的に普及していない」という理由で柔道は正式競技から除外され、復活のためには「全世界で通用するルール」を整える必要があった。その取り組みによってヨーロッパでの競技者が増え、1972年のミュンヘン五輪で正式競技に復帰した。

 だが、世界に「JUDO」が広がっていく一方で、皮肉にも問題が浮き彫りになる。国際審判員として福岡国際女子柔道選手権や国内最高峰の全日本柔道選手権で主審を務めてきた正木照夫は、「柔道の国際化によって誤審が急増した」と指摘する。

 1947年生まれの正木は、拓殖大学時代の1969年に全日本学生柔道選手権無差別級で優勝。大学卒業後に和歌山県の高校教諭となってからも全日本選手権に10度出場し、出場選手最年長の32歳で出場した1979年の全日本選手権では、大会3連覇を狙う22歳の山下泰裕と熱戦を繰り広げた。

 1984年には競技実績を評価されて全日本柔道連盟の審判員となる。1996年に「正木道場」を興す一方で、55歳まで全国教員柔道大会に出場。選手、指導者、審判員の“三刀流”を長く続け、「柔道界の鉄人」と呼ばれた。

「審判員は基本的に元トップ選手が務めます。しかし国際試合となると出場選手とは別の国の審判が務める必要がある。そのため世界各国から審判員が大会に派遣されるが、柔道のレベルが高くない国では、選手として世界レベルで戦った経験がある審判員はほとんどいない。高度な駆け引きに目が慣れていないため、シドニー五輪での“世紀の誤審”のようなことが起きてしまうのです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン