このルール改正については、五輪の伝統競技であるレスリングとの差別化を図りつつ正式競技として存続させようとする、国際柔道連盟の狙いがあったといわれる。
その後も国際柔道連盟では五輪開催に合わせてルール変更を繰り返してきた。北京五輪後に“効果”を廃止していたが、“有効”も廃止して“一本”と“技あり”に限定し、“技あり”2つで“合わせて1本”を復活させた。試合を4分間に短縮し、勝負がつかなければ時間無制限の延長戦突入。さらに旗判定廃止といった変更も行なわれた。
そのように国際化とともに「IJFルール」が定着する中、全柔連は「講道館ルール」に回帰するかのように、2024年の全日本選手権から「旗判定の復活」「試合時間5分に延長(決勝は8分)」などのルールに変更し、試合時間内で必ず決着をつけることにした。つまり、再び国内で2つのルールが共存する構造だ。
正木はこう説明する。
「国際大会の過密日程などでトップ選手が全日本選手権を回避するケースが増えた。そこで国際ルールから離れ、世界的に珍しい“体重無差別の大会”を魅力あるものにする狙いがあるようだ。近年は世界的にも頻繁なルール改正が行なわれている。大会によってルールが違うのも柔道ぐらいでしょう。その是非はさておき、審判員も柔道家もルールへの対応力が求められているといえる」
(了)
※『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。柔道の審判員のほか、野球やサッカー、飛び込みといった五輪種目を含む8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が好評発売中。