想像を超えた理不尽な差別と偏見
治療は順調に進み、少しずつ外出できる時間は増えていった。だが退院してもすぐに元の生活には戻れない。毎週通院しながら、1年間は自宅で療養し、少しずつ仕事に復帰していった。そんな中、石川を苦しめたのは、想像を超えた理不尽な差別と偏見だ。
肝炎は“国内最大級の感染症”ともいわれ、自覚症状がほとんどないため肝がんや肝硬変などに重症化しやすい。主に血液・体液を介して感染し、握手など通常の接触では感染しないが、当時はいま以上に誤った知識が広がっていた。
「街を歩いていたときに、ファンのかたにお願いされて握手をしていると、通りがかりの人から『その人はB型肝炎だから、握手したらうつるぞ』と言われて、びっくりして……。何もしていなくても『あの人、B型肝炎の人だ!』と名指しされたこともありました」
気分転換にスイミングスクールに通い始めると、保護者から「子供に感染すると困るから、やめさせてほしい」と苦情が寄せられたこともあった。
「そのときは、スクールのかたから『感染しないことはわかっているので、気にしないで通ってください』とおっしゃっていただきました。保護者の気持ちもよくわかります。私が逆の立場で正しい知識がなければ、同じことを言ってしまったかもしれない。直接、真実を伝えられないのがもどかしかったです」
一方、支えになった人もいた。夫である音楽プロデューサーの山田直毅さんもそのひとり。デビュー当時から石川の音楽監督を務め、発症後も変わらず石川を励まし続けた。
「夫からは本当に、たくさんの元気をもらっています。肝炎というと“感染する”という印象が強く、昔は特に避けられることが多かった。でも夫は、『そんなことはないよね』と寄り添ってくれて、どうすべきかを一緒に考えてくれた。前を向くことができたのは彼のおかげです」
同じ病と闘う仲間と知り合い、悩みを共有できたことも大きな支えになったという。
「どんな病気でも、つらいときは誰かに頼って吐き出すことが大事だと思います。インターネットなどを使えば、昔と比べて人とつながりやすくなっている。わかってくれる人がいるだけでパワーをもらえるので、ひとりで抱え込まないことを忘れないでほしい」