(時事通信フォト)

木村庄三郎時代の畠山氏。行司には土俵から転落する危険も伴う(時事通信フォト)

 問題の場面は2回ウラ。佐々木が投じた外角ストレートがボール判定となった後、佐々木は少し苦笑いを浮かべてマウンドからホームベースに数歩近寄った。これを“判定への不服”と受け止めた白井球審はマスクを外し、険しい表情を浮かべてマウンドに歩みを進める。不穏な空気を察したロッテの捕手・松川虎生がなだめて白井は引き返したが、そのシーンは物議を醸した。畠山は感想を“審判目線”でこう語っていた。

「あの試合は、私もたまたまテレビで観ていたんです。大相撲でも行司の軍配に対して、負けた力士が“相手が先に落ちていた”“差し違いだろう”という顔をすることがあります。でも、あの(佐々木投手と白井球審の)ようなことにはならない。大相撲には“物言い”という制度がありますが、これができるのは土俵下に座る審判委員だからです」

 そのため、勝敗を不服に感じた力士が行司をにらみつけたりすることは滅多になく、土俵下の審判員に“物言いをつけてくれよ”と表情で訴える力士が多いのだという。

「行司は物言いの審議に意見は述べられますが、決定権はありません。物言いで判定が覆ることもあるので、ストライクとボールの判定が絶対に覆らないプロ野球の球審とは明らかに違う。行司にはプロ野球の球審のような権限はないと思います」

 いわば行司は「審判委員のアバター(分身)」でしかないというのだ。それでも立行司は「差し違えれば切腹する覚悟」で左腰に短刀を帯びる。

「力士が土俵上で激しく動き回るので、行司も立ち位置を目まぐるしく変えます。勝負が決まったらすぐに軍配を上げなければなりませんから、勝ち力士が東方か西方かを取り違えないよう、常に位置関係を把握しています。

 土俵際では力士の足元から目を離せませんから、見える位置に回り込みます。間違えないためにはできるだけ近くに寄らなければならないが、決して取組の邪魔になってはならない。同体に見えても、必ずどちらかに軍配を上げなければならないのもシビアですね」

 それほど難しい役割でありながらも、扱いは“アバター”というのも不条理に思える。「行司はつらいか?」と訊いてみると、畠山は即答した。

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