スポーツ

《横綱・照ノ富士、白鵬以来のV10なるか》【故・第37代木村庄之助が語った大相撲「行司」の世界】「最高位での“行司黒星”ゼロが誇り」ビデオ判定の弊害も指摘「もう少し人間の目を信じてもいい」

いよいよ千秋楽(時事通信フォト)

今場所もいよいよ千秋楽(時事通信フォト)

 今年の初場所で優勝して以来、不調や休場続きだった横綱・照ノ富士が快進撃を続けた大相撲名古屋場所(7月場所)も、いよいよ千秋楽を迎える。照ノ富士が勝てば史上15人目、白鵬以来の2桁優勝となる。その取組を土俵上で裁くのが行司の最高位である「立行司」だ。立行司は腰に脇差を帯びるが、これは行事差し違えの際に切腹する覚悟を示すため。病気のため2022年に72歳で逝去した畠山三郎氏(第37代木村庄之助)は「立行司」を務めた間、一度も軍配を差し違えたことはなかったという。『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が、第37代木村庄之助が語り残した言葉を紹介する。(前後編の後編。前編から読む。文中敬称略)

 * * *
 同体にしか見えない際どい勝負でも「引き分け」の判定はなく、行司は必ずどちらかに軍配を上げないといけない。それでいて土俵下の審判委員から「物言い」をつけられるうえに、最終的な勝敗判定の決定権は持っていない。そして差し違えとなった場合の責任は、行司が背負うことになる。2015年に65歳で定年退職するまで「第37代木村庄之助」を務めた畠山三郎はこう語っていた。

「三役格以上の行司(*)が差し違えたら、その日のうちに進退伺を協会に提出します。さすがにいきなりクビになることはありませんが、1場所で2度の差し違えをした行司に謹慎処分が下ったケースもある。高位になればなるほど、勝負判定に間違いは許されないのです。

 私は立行司として(第39代式守)伊之助を6場所、庄之助を9場所務めましたが、その間に一度も“行司黒星”はなかった。それが私の誇りだね」

【*注/行司の序列は高い順に、立行司、三役格、幕内格、十枚目格、幕下格、三段目格、序二段格、序ノ口格の8段階】

 行司黒星とは文字通り「差し違え=行司の負け」という意味だが、行司の矜持を感じさせる表現だろう。

 ただ畠山にも立行司・木村庄之助時代に「物言いで勝負判定が覆った経験」がある。

(産経新聞社)

第39代式守伊之助時代も、第37代木村庄之助時代も“行事黒星”がなかった(産経新聞社)

土俵下に控えていた横綱・白鵬からついた「物言い」

 2014年5月場所12日目、豪栄道対鶴竜の一番。豪栄道に軍配を上げると、物言いがついた。物言いの手を挙げたのは5人の審判委員ではなく、何と土俵下に控えていた当時の横綱・白鵬だった。滅多に見られないシーンだが、実は物言いの権利は控え力士にもある。だが、鶴竜の手が先に土俵についていたのは誰の目にも明らかだった。審判委員や木村庄之助(畠山)が怪訝そうな表情を浮かべる中、白鵬が指摘したのは「前のめりになった鶴竜の髷を豪栄道が摑んでいた」というもの。そしてビデオ判定を経た協議の末に物言いが認められ、豪栄道の反則負けとなった。

 だが、これは「行司黒星」には当てはまらないのだという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

アメリカの人気女優ジェナ・オルテガ(23)(時事通信フォト)
「幼い頃の自分が汚された画像が…」「勝手に広告として使われた」 米・人気女優が被害に遭った“ディープフェイク騒動”《「AIやで、きもすぎ」あいみょんも被害に苦言》
NEWSポストセブン
TikTokをはじめとしたSNSで生まれた「横揺れダンス」が流行中(TikTokより/右の写真はサンプルです)
「『外でやるな』と怒ったらマンションでドタバタ…」“横揺れダンス”ブームに小学校教員と保護者が本音《ピチピチパンツで飛び跳ねる》
NEWSポストセブン
復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
複座型ステルス戦闘機J-20 米国のF-35に対抗するために開発された。第5世代ステルス戦闘機(写真=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ)
【中国人民解放軍「最新兵器」】台湾侵攻や海上封鎖を想定した軍事演習も 就役直後の最新空母、ステルス戦闘機から“犬型ロボット”まで、性能を詳細に分析
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
喫煙所が撤去されてホッとしていたのだが(写真提供/イメージマート)
《規制強化の動き》加熱式タバコユーザーのマナー問題 注意しても「におわないからいいじゃん」と開き直る人、タクシー車内で喫煙する人も
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン