瀕死の岸田政権を尻目に、9月の総裁選に向けた「ポスト岸田」の動きが活発化している。「次期総裁にふさわしい人」の世論調査では各社とも石破茂氏が他の候補を圧倒的にリードしている。が、世論通りには進まないのが総裁選。長年取材してきた政治のプロたちの票読みとは。【全5回の第1回】
「派閥の締め付け」が利かない初めてのケース
すでにさまざまな候補者の名前が取り沙汰されている自民党総裁選だが、まだ正式に出馬表明した議員はいない。
総裁選は誰が先に名乗りを上げるかによって情勢が大きく変わる。そのため有力候補は互いに出方をうかがい、牽制し合っているのだ。
“本命”とされる石破茂・元幹事長は、出馬の判断を「お盆がひとつの目処だ」と記者団に語り、岸田文雄・首相を支える立場にある茂木敏充・現幹事長も「常識的には8月から9月上旬だろう」とテレビ番組で話した。
自民党の派閥政治では「親分が右と言えば右、左と言えば左なのだ」(金丸信・元副総裁)とされ、総裁選でも、派閥所属の議員は親分が決めた候補に投票すればよかった。
それが岸田首相の「派閥解散」によって、今回の総裁選は「派閥の締め付け」が利かない初めてのケースになると見られている。
“噛ませ犬”を用意する
しかし、だからといって議員や党員による“自由で民主的な投票”にはなりそうにない。
キングメーカーと呼ばれる自民党の実力者たちが、そうはさせじと権謀術数をめぐらせているからだ。彼らは意に沿わない候補を落とすために、わざと“噛ませ犬”的な候補を乱立させて票を奪い、決選投票に持ち込んで意中の候補を勝たせるといった手段を取る。
総裁選の仕組みがそれを可能にしている。
自民党総裁選は、1回目の投票は国会議員投票(衆参373票)と約110万人の党員投票で行なわれる。各候補が獲得した党員票は、議員票と同じ373票に換算されて配分される。総数は746票だ。
1回目の投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位2人による決選投票になる。