主審は自分の目でビデオを見ない
国際柔道連盟試合審判規定では、「2名の試合者とは異なる国籍の3名の審判員によって裁かれる。団体戦も同様である。抽選により、中立な審判が選出される。(中略)試合場にいる主審1名は、テクニカルテーブルに座る2名の副審と無線機により繋がっている。試合に介入することができるスーパーバイザーもしくは審判委員は、ケアシステムの設置された場所に座り、主審ならびに副審と無線機により繋がっていなければならない」と規定されている。
この規定に則り、柔道の国際試合では主審の他に副審2人がいて、ビデオ判定をする審判委員(スーパーバイザー)は3人で構成されている。試合場では主審が「始め」「待て」と声を掛けて試合を進行しているが、無線機で繋がっている副審やビデオ担当の審判委員からの指示も受けているのだという。
そうしたなかで、柔道のビデオ判定が機能していないとの批判がなぜ出るのか。長年にわたって国際審判員を務めた正木照夫氏に聞いた。正木氏は全日本選手権に10度出場。1984年に全日本柔道連盟の審判員となり、『正木道場』を興して指導者となった後も55歳まで競技大会に出場して選手生活を続け、「柔道界の鉄人」と呼ばれたレジェンドだ。
「他の多くのスポーツでは、主審が自分の目でビデオを最終確認して判断を下しますが、柔道の場合は主審がビデオを確認せずに試合場の外にいる審判員の判定に従います。これは数の論理だとされています。(ビデオも確認している)副審が2人、ビデオ担当の審判委員が3人いるため、多数の判断が優先される。映像判定により、判定の正確さが増しているのは間違いない。特に『指導(3回で反則負け)』をめぐる判断は概ね公平性が担保されていると思います。
ただ、永山選手の判定は主審、副審、ビデオ担当の審判委員とすべてが見逃した大誤審でした。審判団は“永山選手は『待て』がかかる前に落ちていた”と判断し、複数がいろんな立場で目と映像によって確認しているとして再チェックに応じなかった。国際柔道連盟としては、ビデオ判定までして手を尽くしたということでルール変更する考えはないということでしょうが、今後の検討課題といえるのではないか」
2000年のシドニー五輪での100キロ超級決勝での篠原信一とダビド・ドゥイエ(フランス)戦での「世紀の誤審」により導入された柔道のビデオ判定だが、運用改善されることになるのだろうか。
【プロフィール】うかい・よしろう/1957年、兵庫県生まれ。ジャーナリスト。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。新著『審判はつらいよ』(小学館新書)が話題。