1984年に全日本柔道連盟の審判員となり、1996年に「正木道場」を興す一方、55歳まで全国大会に出場し「柔道界の鉄人」と呼ばれた正木照夫氏

1984年に全日本柔道連盟の審判員となり、1996年に「正木道場」を興す一方、55歳まで全国大会に出場し「柔道界の鉄人」と呼ばれた正木照夫氏(撮影/杉原照夫)

主審は自分の目でビデオを見ない

 国際柔道連盟試合審判規定では、「2名の試合者とは異なる国籍の3名の審判員によって裁かれる。団体戦も同様である。抽選により、中立な審判が選出される。(中略)試合場にいる主審1名は、テクニカルテーブルに座る2名の副審と無線機により繋がっている。試合に介入することができるスーパーバイザーもしくは審判委員は、ケアシステムの設置された場所に座り、主審ならびに副審と無線機により繋がっていなければならない」と規定されている。

 この規定に則り、柔道の国際試合では主審の他に副審2人がいて、ビデオ判定をする審判委員(スーパーバイザー)は3人で構成されている。試合場では主審が「始め」「待て」と声を掛けて試合を進行しているが、無線機で繋がっている副審やビデオ担当の審判委員からの指示も受けているのだという。

 そうしたなかで、柔道のビデオ判定が機能していないとの批判がなぜ出るのか。長年にわたって国際審判員を務めた正木照夫氏に聞いた。正木氏は全日本選手権に10度出場。1984年に全日本柔道連盟の審判員となり、『正木道場』を興して指導者となった後も55歳まで競技大会に出場して選手生活を続け、「柔道界の鉄人」と呼ばれたレジェンドだ。

「他の多くのスポーツでは、主審が自分の目でビデオを最終確認して判断を下しますが、柔道の場合は主審がビデオを確認せずに試合場の外にいる審判員の判定に従います。これは数の論理だとされています。(ビデオも確認している)副審が2人、ビデオ担当の審判委員が3人いるため、多数の判断が優先される。映像判定により、判定の正確さが増しているのは間違いない。特に『指導(3回で反則負け)』をめぐる判断は概ね公平性が担保されていると思います。

 ただ、永山選手の判定は主審、副審、ビデオ担当の審判委員とすべてが見逃した大誤審でした。審判団は“永山選手は『待て』がかかる前に落ちていた”と判断し、複数がいろんな立場で目と映像によって確認しているとして再チェックに応じなかった。国際柔道連盟としては、ビデオ判定までして手を尽くしたということでルール変更する考えはないということでしょうが、今後の検討課題といえるのではないか」

 2000年のシドニー五輪での100キロ超級決勝での篠原信一とダビド・ドゥイエ(フランス)戦での「世紀の誤審」により導入された柔道のビデオ判定だが、運用改善されることになるのだろうか。

【プロフィール】うかい・よしろう/1957年、兵庫県生まれ。ジャーナリスト。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。新著『審判はつらいよ』(小学館新書)が話題。

関連記事

トピックス

交際中の綾瀬はるかとジェシーがラスベガス旅行
【全文公開】綾瀬はるか&ジェシーがラスベガスに4泊6日旅行 「おばあちゃんの家に連れて行く」ジェシーの“理想のデートプラン”を実現
女性セブン
幕内優勝力士に贈られる福島県知事賞で米1トンが
「令和のコメ不足」の最中でも“優勝したら米1トン”! 大相撲優勝力士に贈られる副賞のコメが消費される驚異のスピード
NEWSポストセブン
「学園祭の女王」の異名を取った田中美奈子(写真/ロケットパンチ)
田中美奈子が語る“学園祭の女王”時代 東大生の印象について「コミュニケーションスキルが高く、キラキラ輝いていた」
週刊ポスト
愛子さま
愛子さま、日赤への“出社”にこだわる背景に“悠仁さまへの配慮” 「将来の天皇」をめぐって不必要に比較されることを避けたい意向か
女性セブン
羽生結弦(時事通信フォト)の元妻・末延麻裕子さん(Facebookより)
【“なかった”ことに】羽生結弦の元妻「消された出会いのきっかけ」に込めた覚悟
NEWSポストセブン
目覚ましテレビの人気コーナー「きょうのわんこ」(HPより)
『めざましテレビ』名物コーナー「きょうのわんこ」出演犬が“撮影後に謎の急死”のSNS投稿が拡散 疑問の声や誹謗中傷が飛び交う事態に
女性セブン
シャトレーゼのケーキを提供している疑惑のカフェ(シャトレーゼHPより)
【無許可でケーキを提供か】疑惑の京都人気観光地のカフェ、中国人系オーナーが運営か シャトレーゼ側は「弊社のブランドを著しく傷つける」とコメント 内偵調査経て「弊社の製品で間違いない」
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝『旅サラダ』残り2週間》謹慎中のKAT-TUN中丸雄一、番組復帰の予定なしで「卒業回出演ピンチ」レギュラー降板の危機も
NEWSポストセブン
小泉進次郎氏・滝川クリステル夫妻の出産祝いが永田町で話題
小泉進次郎夫妻のベテラン議員への“出産祝い”が永田町で話題 中身は「長男が着ていたとみられるベビー服や使用感のあるよだれかけ」、フランス流のエコな発想か
女性セブン
稽古は2部制。午前中は器具を使って敏捷性などを鍛える瞬発系トレーニングを行なう。将来的には専任コーチをつけたいという
元関脇・嘉風の中村親方、角界の慣習にとらわれない部屋運営と指導法 笑い声が飛び交う稽古は週休2日制「親方の威厳で縛らず、信頼で縛りたい」
週刊ポスト
柏木由紀と交際中のすがちゃん最高No. 1
《柏木由紀の熱愛相手》「小学生から父親のナンパアシスト」すがちゃん最高No.1“チャラ男の壮絶すぎる半生”
NEWSポストセブン
今年8月で分裂抗争10年目を迎える。写真は六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「宅配業者を装って射殺」六代目山口組弘道会が池田組に銃口を向けた背景 「ラーメン組長」射殺事件の復讐か
NEWSポストセブン