「自民党が変わったということを示す第一歩が、私自身が総裁選挙に出馬しない、身を退くことである」──岸田文雄・首相はそう語ったが、自民党は全く新しくなどなっていない。総裁選の裏で、「財務省の守護神」である麻生太郎・副総裁と財務官僚たちが、岸田内閣に代わる“新たな傀儡政権”を作ろうと暗躍を始めたからだ。【前後編の後編。前編から読む】
国民の財産をさらに奪う企み
財務省取材歴が長い元東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が指摘する。
「財務省は岸田首相を傀儡化して防衛増税をはじめとする国民の負担増路線を敷かせた。増税メガネと批判されると人気取りで1年だけの所得税の定額減税を打ち出したものの、裏では少子化対策財源の名目で恒久的な健康保険料の値上げを決めた。その振り付けをしたのも財務省です」
国民の財産も奪われた。8月初旬からの株価暴落だ。
「資産所得倍増」を掲げて登場した岸田政権は、「貯蓄から投資へ」と新NISAを創設し、国民に株投資を奨励した。
そのベースにあったのは、麻生財務大臣(金融担当相兼務)時代にまとめられた「年金だけでは老後資金は2000万円足りない」という金融庁レポート。財務省は国の年金財政の負担をこれ以上増やしたくないから、岸田政権を使って国民に足りない老後資金を投資で稼がせようとしたのだ。虎の子の老後資金を株に投資するにわか投資家が急増した。
そこで株価暴落に見舞われた。
岸田首相が物価高騰を抑えるために円高転換を指示し、財務省が為替介入、日銀は利上げに踏み切った。そこから株と為替の未曾有の乱高下が始まり、一時は日本企業の時価総額200兆円が失われ、市場は一気に不安定化した。損失を抱え込んだ個人投資家は今も不安を募らせている。
株が暴落すると岸田官邸は大慌てで財務省、日銀、金融庁の3者会合を緊急招集するパニックぶりを見せた。
「国民にあれほど株を買えと煽っておいて、岸田首相も日銀、財務省も利上げと円高介入が株価にどんな影響を与えるかを全く想像できていなかった。実物経済がわからない官僚に頼りきりだからこうなる」(長谷川氏)