草笛光子さんが御年90歳にして作家・佐藤愛子さんを演じ、初の映画主演を務めた『九十歳。何がめでたい』。公開46日で興行収入10億円を突破。現在も上映館数こそ減ったもののロングランが続いている。公開前は「いって5億円」と言われた作品がなぜこれほど──。
映画ジャーナリストの宇野維正さんは、初週の快進撃が功を奏したと語る。
「シネコンでは初動3日間の成績が上映回数の判断材料となるので、ここで結果を残せたことが大きかった。ネットより口コミからヒットに繋がる年配層へ向けてしっかり対策し、上映機会を確保できたことが“勝因”といえます」
前評判をよそに6月21日の公開日から3日間で11万8000人を動員し、国内映画興行ランキングで初登場2位をマーク。「元気をもらえた」「泣いた、笑った」などと口コミがじわじわと広がり、客足はどんどん伸びていった。
しかし、裏を返せば、初動が悪かったら公開早々に打ち切られた可能性があったということ。シネマコンプレックスが主導する今の環境はそれぐらいシビアなのだ。初動がよかった背景には、今作と同じく前田哲監督と草笛さんがタッグを組んだ映画『老後の資金がありません!』(2021年)があると宇野さん。
「コロナ禍で映画館から遠のいたシニアを呼び戻す足掛かりとなった話題作で、この作品が『九十歳〜』の封切り前にテレビで初放送されたんです。週末の午後というイレギュラーな時間帯だったのも、ターゲットを年配層に絞っていたためでしょう。放送後はすぐに『九十歳~』の宣伝が続き、視聴者を映画館へと誘導する動線が自然に作られました。両作品の配給会社は違うのですが、いずれもTBSの岡田有正さんが企画・プロデュースを担当したので効果的なプロモーションが実現しました」
一方、ヒロインの草笛さんの存在感を第一に挙げるのは映画評論家の秋本鉄次さんだ。
「年齢を重ねると誰かの母親役や脇役へ回ってしまうところを、90歳の草笛さんがメジャー作品で堂々と主演を張られた。衰え知らずの女優ぶりと活動寿命の長さに惚れ惚れしました」