原作エッセイの世界観を見事に体現した、草笛さんの“佐藤愛子ぶり”もまた痛快だったという。
「草笛さんは“歯に衣着せぬ物言いで頑固だけど憎めない”愛子になりきっていらした。家族や編集者との日常の人間くさいやりとりを見てクスクス笑うのは昔ながらのホームコメディーのようでしたし、唐沢寿明さんが演じる昭和男の典型のような猛烈な編集者も“こういう人、いるいる”と、見ていて楽しめました」
秋本さんはそんな“自分と地続き感がある身近な世界”が生き生きと描かれたことが、シニアの心を掴んだとも指摘する。
「地続き感があれば、親しみを持てる。私も昔は大スペクタクル映画にハマりましたが、70代になると絵空事に感じられて、魅力が薄くなりました。中高年がシネコンへ行ったら見たいものがなく帰ってきた、なんて話も聞きます。シニアが足を運ぶ『九十歳~』のような実写映画は、高齢社会の時代に求められていると感じます」
実写映画を今後支えていくのはシニアではないかと、宇野さんも期待を寄せる。
「ゼロ年代初頭は洋画と邦画の興収比率が7対3でしたが今は逆転し、ほぼ3対7の“邦高洋低”になった。その潮流を牽引するのが若者層で、コロナ禍に大ヒットした劇場版『鬼滅の刃』などアニメーション映画が主流です。実写のヒットも中にはありますが、キラキラのアイドルが出てくる恋愛系少女コミック原作作品のような、かつての王道は若者に当たりづらくなりました」
『九十歳。何がめでたい』の快挙は、映画業界の未来をも照らす“めでたい光”となったのだ。
取材・文/渡部美也
※女性セブン2024年9月5日号