なぜ、そこまでしてリングに上がるのか
それでも、最後も記者のありきたりな愚問に即答で返答した。なぜ、そこまでしてリングに上がるのか? スポットライトが恋しいのか?
「これだけの周波が重なり合うなんて、運命が私を導いたと思いませんか? 自分の命、師匠の命、本来のプロレスのすごさ、人は何のために生きているのか……そんな全てをお客さんと息子に見せるために、私は生まれてここまで生きてきたのだと実感しています。きっと誰かに何かが伝わるはず」
人間は、窮地に立たされたときにこそ本質が問われる。
「もちろん、私も宣告されて大ショックだったし、ネットでたくさん検索しまくって落ち込んだときもありました。食道がんの主な原因は酒らしい。本来は体質に合わないのに、レスラーと議員生活で浴びるように飲んできてしまったツケでしょう。でも、起きたことは今さらしょうがない。むしろ、どこかこの絶体絶命の状況を楽しんでいる自分がいます」
強がりなのか、自分自身に言い聞かせているのか、圧倒的な強メンタルなのか……いずれにしても、プロレスラー西村修は、その生き様で人間の底力を証明してみせようとしている。
26年前の1998年。27才のときも、後腹膜腫瘍のがんを克服して、レスラーに復帰した成功体験もある。「もちろん、試合にもがんにも全部、必ず勝ちます。奇跡を起こします」
そう誓うと、生気が満ちるという玉前神社の玉砂利「はだしの道」で、力強く踏み歩き出した。