【著者インタビュー】『しぶとい十人の本屋─生きる手ごたえのある仕事をする』/朝日出版社/2310円
【本の内容】
いま、書店が私たちの街から消えつつある。書店の総店舗数は10年前に比べて3割減。そうしたなかで、書店を新たに起こしたり、あるいは果敢に続けている人たちに、著者が会いに行き、対話を重ねた一冊。そのスタイルは様々だが、どの人の言葉も経験に即し、地に足がついて、しかも希望もある。線を引いて胸にしまっておきたい言葉がそこかしこに。《どのような仕事でも、自ら考え、自分の足で立って行われた仕事には、すべての道に通じる普遍がある。この旅で話を訊いた彼らの仕事や生きかたには、行き詰まっているこの社会で自分らしく生きていきたい人への、ひとつの灯りになるのではないかと思っています》(「はじめに」より)。
ポリフォニーの良さが出たんじゃないかな
東京・荻窪で「Title」という書店を営む辻山良雄さんが、個人経営の気になる本屋さんを訪ねてじっくり話を聞いた本である。対話した九人と辻山さんとで、タイトルの「十人」になる。
インタビューは静岡・掛川の「走る本屋さん・高久書店」高木久直さんから始まって、新潟「北書店」の佐藤雄一さんで終わる。店の選び方が面白いし、ある人の言葉が次の対話の中で思い起こされたりする。
「ポリフォニー(多声的)の良さが出たんじゃないかなと思います。同じ仕事をしていても全然違う考え方だったり、やっぱり共通点があったりして、こうして一冊にまとめてみると、いろんな声が響き合う本になりました。
この人に話を聞きたいというのは旅を始める前になんとなくありましたけど、完全にカチッと決めていたわけではなくて、最初の行き先だけ決めて、旅を続けるなかで次に行く場所がわかるみたいな、実際に旅するのと同じ流れになりました」
2023年に閉店した鳥取・定有堂書店を訪ねたのもひとつの偶然からだった。
20年ほど前に定有堂を訪ねたことがある辻山さんは、NHK『ラジオ深夜便』の中で自身が担当する「ブックマーク」のコーナーで、定有堂が3月末に閉店したことを話した。その翌日、放送を聴いた知人から、当初の予定を変更して4月18日まで営業を続けることを教えられる。
すぐにお詫びの電話を入れ、何度かやりとりするうちに、辻山さんは定有堂の奈良敏行さんに会いに行くことを決める。本で書かれているとおり、「本屋の神さま」のはからいでは、と思いたくなる流れだ。
インタビューは、スタジオジブリの雑誌『熱風』に連載された。
「『熱風』で何か書きませんか、とお話をいただいてから、何を書けばいいのかが決まらず、1年近くモヤモヤ考えていました。自分の店で起きるできごとは、別の媒体で書いていますし。
2016年にこの店を開いて、仕事にも慣れて、これでいいのかなと思うようになったんです。コロナ禍でなかなか外に出られない時期とも重なっていたので、他の人の言葉を聞いて、この仕事がどういうものか考えなおすことならできるんじゃないかと今回の旅を思いつきました」
連載時のタイトルは「日本の『地の塩』をめぐる旅」。「地の塩」とは聖書に出てくる言葉で、派手さはないが世の中に必要なものという意味があり、書店に対する辻山さんの思いがうかがい知れる。