真っ白なコックコート姿の道場六三郎氏が調理場に入ると、一気に緊張感がみなぎる。93歳の今もなお現役料理人として活躍する“和食の神様”は、弟子たちに次々と指示を繰り出していく。現在も月に数回、店に立ち、毎月の献立を考える道場氏だが、後進の指導にも熱が入る。
「僕は10代から調理場では『きれいに早く』と念じながら仕事をしてきました。料理の現場には時間の無駄、火力の無駄、水の無駄が結構あります。若い衆には、僕の信条『きれいに早く、無駄なく』をいつも伝えています」(道場氏、以下同)
1993年に放送を開始した人気テレビ番組『料理の鉄人』(フジテレビ系)で初代「和の鉄人」として一世を風靡。当時すでに60代だったが、新しいことに果敢に挑んだ。「日本料理界の異端児」の異名を轟かせた、伝統にとらわれない自由な発想とチャレンジ精神は今も健在だ。料理だけでなく、道具にも縛りを設けず柔軟に活用する。
「高圧釜(圧力鍋)をよく使うので、自分を『高圧男・道場六三郎』と呼んでいます(笑)。今まで以上に美味しく炊けるものが多く、時間や水の無駄も省ける。電子レンジもピーラーも、僕は使えるものは何でも使う。人件費がネックになっている飲食店は多いですが、人数の少ない調理場では便利な道具を活用し、今より多くの仕事ができればいいと思うんです」
90歳を迎える目前に、YouTubeチャンネルを開設
道場氏は2020年12月、90歳を迎える目前に、YouTubeチャンネル『鉄人の台所』を開設した。
「『料理の鉄人』のディレクターをしていた田中経一さんから、ご家庭の皆さんに向けてYouTubeをやりませんかと提案されたんです。僕はそれまでYouTubeがどんなものか知らなかった。言われるがままにやってみたんですけど、若い子たちが『YouTube見ました』と僕の店に来てくれるようになったりと、ありがたいですね。家庭で作れるものが中心で、ほとんど思い付きの料理ですが、『面白いよ』と評判がいいようです」